Book-long-@

□人命救助訓練
1ページ/1ページ



とある日の水曜日、私は久しぶりに消太さんと一緒に登校していた。最近は朝一で鍛錬場に通うために早起きして登校していたため、一緒に行くことが少なくなっていたのだ。

「どうだ、身体能力は上がったのか?」

朝からだるそうな目つきで歩き進む彼の横で、私は空気を切るように拳を前へ突き刺す動作をしながら言う。

「肉弾戦は自信があります……が、個性を一人で鍛えるのには限界があると感じました」

私は前へ出した拳をそのまま自身の胸の前へ移動させ、掌を開いて見つめた。まだまだ足りない。鍛錬も、時間も、努力も。

「捕縛武器も機動力の向上には繋がりましたが、まだ消太さんのようにうまくは扱えていません。課題は山積みです」

私はまた拳をギュッと握ると、前を見据えて歩き続けた。

「焦るなよ鏡子。時間は有限だが焦りに飲まれた人間はろくに成長なんて出来やしない」

消太さんはそう言うが、私は正直焦っていた。勉強は出来なくても、戦闘能力には自信があった。でも、クラスメイトには強く賢い人がたくさんいた。八百万さんや轟もそうだが、爆豪もあんな性格だが優秀であることは認めざるを得ない。負けたくない気持ちと自信喪失が入り混じって、最近の私の心はとても不安定だった。

校門に着くと消太さんは足を止め、こちらを見ながら言った。

「そんな自分を追い込むな。今日もヒーロー基礎学がある。そこでまた何か見つければいいさ」

消太さんはそう言って職員室のある校舎へ向かって歩いて行った。私は消太さんの後ろ姿をしばらく見つめていた。



______________



時間はあっという間に過ぎ、午後の授業が始まった。昼休み後の授業はヒーロー基礎学だ。

「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイトともう1人の、3人で人命救助訓練を行う」

人命救助。それはヒーローの本分でもある。実践形式の授業に、またしてもクラスのみんなは気合が入っていた。

「訓練場は少し離れたところにあるからバスに乗っていく。各自任意でコスチュームに着替え駐車場へ集合。以上、準備開始」

消太さんの話が終わると、みんな忠実に一切の無駄な時間を作らずに準備をしバスに乗り込んでいった。

バスで5分ほどだろうか、学校の敷地内とは思えないほど大きな建物が目の前にそびえ立っていた。中へ入ると、そこはまるで遊園地のような空間が広がっていた。

「あらゆる事故や災害を想定し僕が作った演習場です。その名もUSJ(ウソの 災害や 事故)ルーム」

そう言って現れたのはスペースヒーロー「13号」と呼ばれるプロヒーローの先生だ。その手の話に詳しい緑谷は、解説者のように様々なことを教えてくれる。

「水難事故、土砂災害、火事。災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーローだ!」

なるほど、彼はヴィラン退治をするヒーローとは違い、街の安全と人々の命を守る活動をしているのか。有名なヒーローすら知らないことが多い私だから、こういうときに緑谷の解説は役に立つ。それ以外で彼を尊敬できる点は1つもないのだが。

「仕方ない、オールマイトがまだ来ていないが始めるか。そんじゃあ、まずは……」

そう言って消太さんは話を始めるが、突如不自然に後ろへ振り返った。ビリビリという空気がいきなり肌を走り、嫌な予感が私を襲う。

「一塊になって動くな!」

次の瞬間、消太さんは珍しく大きな声を上げた。こんなことは滅多にない。異常事態だ、私は瞬時に認識をした。

「13号、生徒を守れ!」

私はその言葉を聞く前に腕に巻かれた捕縛武器を解き、戦闘態勢へと入った。消太さんの視線の先を確認しようと、数歩足を進ませると見てはいけないものが視界に入ってしまった。

「あれって、まさか……」

額に汗が滲むのがわかった。これ以上先に進むなと言わんばかりに消太さんは左手で私の前進を止めている。

「なんだありゃ?!また入試んときみたいなもうはじまってんぞパターン?」

呑気に言う切島に、呆れる余裕もない。私が目にしたもの、それは漆黒の霧のなかから続々と現れる者達。

「動くな!あれはヴィランだ!」

消太さんは首からかけていた黄色いゴーグルを目に付けた。戦うつもりだ。私はどうすべきだ。考えるんだ、今自分がすべき最善を。

「みんな!外へ逃げて!」

私は戦闘態勢から一転して逃げる選択をした。ここで私達が立ち向かっても消太さんの足手まといになるだけだ。また、敵の人数もこちらより遥かに多かった。ここは逃げるのが先決。

「それでいい、すぐに他の教師に伝えろ!」

みんなはまだ状況が飲み込めていないようだが、とりあえず来た道を引き返し足早に歩きだした。

「鏡子」

ヴィランを見据えながら、消太さんは私を呼んだ。他の人には聞こえないであろう小さな声だ。

「任せたぞ」

そう言いながら首から肩にかけて巻かれていた捕縛武器を手に取ると、彼は髪を逆立てながら足を踏み出す。

「13号頼んだぞ」

そう言って消太さんは何十人にもなるヴィランの大群の中へと飛び込んでいった。





_____
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ