Book-long-@

□不法侵入
1ページ/1ページ



昼休み。

食堂は様々な学年、学科の生徒でごった返していた。カウンターから見えるキッチンではたくさんのコックが料理を作り続けている。私も今日は早起きしたせいでお腹はぺこぺこだ。

「鏡見ちゃん、一緒に食べましょ」

梅雨ちゃんはそう言って私の正面の席へ座った。トレーにはカレーが乗っている。

「お!俺らもいいかぁ?」

そう言って同じテーブルに座るのは切島と上鳴、瀬呂の3人だ。友達とワイワイご飯を食べるのは何年ぶりだろう。いや、初めてのことかもしれない。

私は今まで友達というものに一線置いて過ごしてきた。虐められるのが嫌だったから、嫌われるのが怖かったから、ただそれだけの理由だ。でも、私にとっては十分すぎる理由だった。まだ入学して数日しか経ってない。それでも戦闘訓練以降、ここでなら今までの私とは違う何かを見つけられる予感がしていた。




ウウウウゥゥゥウウウウ!!

考え事をしていると、突如として校舎内に警報が鳴り響いた。息苦しくなるような、不安にさせる音だ。警報に続いてアナウンスも流れる。

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難して下さい』

セキュリティ3が何なのかはわからない。ただ、“避難”という言葉から異常事態が起きていることが伝わった。

「何だ何だ?!」
「急に何?!」
「わぁぁ!押すなってちょっと!いてぇ!」

あっという間に津波のような人混みが出入りへ向かって流れていった。重い、痛い、苦しい。訳がわからない状態のまま、あっという間に食堂は混乱状態と化した。

廊下へなだれ込む生徒達。教師陣の姿はどこにもない。こんな時に何をしているのだろうか。

「みなさんストップ!ゆっくりゆっくり!」

必死になだめようとしている切島の姿が見て取れたが、満員電車のようにぎゅうぎゅうになった廊下は人を掻き分けることも困難になっていた。上鳴は流れに身を任せている。

「梅雨ちゃん……!」

私は人混みをかき分け、小柄な梅雨ちゃんへ手を伸ばした。がっしりと手を握り、私の前にある多少の空間へ梅雨ちゃんを避難させた。こんなに人に触れていては私の個性は使えない。どうにかならないものか頭を働かせて最善策を模索していた。

すると、どこからともなく現れた飯田くんは宙を舞い、すごい音を立てて非常口の真上に張り付いたのだった。

「みなさん!大丈〜夫!!!ただのマスコミです!何もパニックになることはありません!大丈夫!ここは雄英、最高峰の人間にふさわしい行動を取りましょう!」

飯田くんの真面目すぎる姿。それは入学してから何度か見かけているが、段々とかっこよく見えてきていた。まさにヒーローに相応しい正しき行動。頼りになる人物だった。

その後、廊下で発した言葉は混乱したほとんどの生徒の耳に入ったようで、その場は落ち着きを取り戻していった。この一連のパニックはマスコミが学校の領域に無許可で足を踏み込んだことによるものだった。


_______________



「委員長はやっぱり飯田くんがいいと思います。あんな風にみんなをまとめられるんだ。僕は飯田くんがやるのが正しいと思うよ」

夕方のホームルームの時間。委員長の緑谷は突如として提案を持ちかけた。

「いいんじゃね?飯田超活躍してたし!」
「非常口みてぇになってたよな」

彼が今日のパニックを静めたのをみんなが見ていた。私も最初は委員長なんて誰でもいいと思っていたが、彼なら任せたいと思えた。異議はない。

「委員長の指名ならば仕方あるまい!」

こうして飯田くんが堂々の1年A組委員長の座を手に入れたのだった。





____
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ