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□学級委員長
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朝のマスコミ対応のせいで、いつもは時間通りに来る消太さんが遅れて教室へ入ってきた。マスコミは教師陣の説得には応じず、今もなお校門でオールマイトが来るのを待っているようだ。
「昨日の戦闘訓練おつかれ。VTRと成績は見せてもらった」
朝からマスコミの対応をして疲れているのだろう。いつもより気だるさが増して見える。また、時間に厳しい彼だからこそ、遅れてしまったことに苛立ちを隠せない様子だった。
「さてホームルームの本題だ。急で悪いが今日は君らに学級委員長を決めてもらう」
なんとも学校っぽいのが来た。学級委員長、クラスをまとめるリーダー的存在。教室は一気に騒がしくなり、ほとんどの者が挙手をし立候補した。
「委員長やりたいです!」
「俺にやらせろ!」
「やるやるー!」
こんなに騒がしくなったらまた消太さんのゲキが飛ぶぞ、と心で呟きながら頬杖をついて様子を伺っていた。ちなみに私は手を挙げていない。隣で静かに傍観している轟も立候補はしていなかった。
「静粛にしたまえ! 」
消太さんではない声が教室に響き渡り、一瞬にして静まり返る。声の主は飯田くんだ。手を高々と上げたまま、言葉を続けた。
「学級委員長とは、周囲から信頼あってこそ務まる聖務。これは投票で決めるべき議案!」
熱い男だ。いや真面目すぎるのだろうか。私は正直、学級委員長なんて誰でもよかった。
「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
「そんなん、みんな自分に入れらぁ!」
冷静に突っ込む梅雨ちゃんと、切島の一声に納得してしまう。実際、まだ入学してそんなに関わりを持っていない。戦闘訓練で大抵の個性が分かったとはいえ、まだ話したことのない人だっているくらいだ。誰が一番相応しいかなんて分からなかった。
「時間内に決めりゃなんでもいいよ」
面倒くさそうに持参した寝袋へモゾモゾと入っていく消太さんは、そのまま教壇の上でミノムシのように横たわった。勝手にやっといてくれ、といった雰囲気だ。
大差が出ないのは予想出来たが、飯田くんが納得できるならと、そのまま投票で決める流れとなり獲得票の集計も早々に終わった。
緑谷3票。八百万2票。それ以外の立候補者は自分に投票したことによる1票を獲得。僅差で学級委員長と副委員長が決まった。
立候補を希望しない者は誰かに投票したことで0票となっていた。飯田くんは立候補をしていたにも関わらず誰かに投票したことで0票だ。彼が何をしたかったのか、クラスの誰も理解することはできなかった。
それよりここで1つ、おかしなことに私は気づいた。「鏡見 1票」と黒板に書かれている。何度も言うが、私は立候補していない。クラスで1番優秀そうな八百万 百(やおよろず もも)に投票したのだ。なのに誰かが私に投票した、ということになる。
嫌な予感がしてちらりと隣に座る轟の顔をみると、こちらに向かって一瞬不敵な笑みを浮かべた。彼は私が手を挙げていないのを見ていたはずだ。なのに轟が私に投票したというのだろうか?
私は納得のいかない感情を押し殺し、口を尖らせつつ前へと視線を移すのだった。
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