Book-long-@

□放課後
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次々とクラスメイト達の訓練が行われていった。

ほとんどの人が怪我もなく真摯に取り組んむ中、爆豪は無茶な個性でビルを破壊し、緑谷はまたもや無茶をして体がボロボロになっていた。

緑谷はモニタールームに戻ることなく、そのまま保健室へ運ばれて行った。確かにあの増強系の個性はすごい。でも、それを制御出来ずに行動不能になってしまっては本末顛倒だ。ヒーローとしては致命的な欠陥である。

講評の間、爆豪はずっと不機嫌だった。らしくもなく、ぼーっと一点を見つめていてオールマイトの話をあまり聞いていない。様子がいつもと明らかに違っていた。

その後、全課程を終了しオールマイトの指示のもと着替えて全員が教室へ戻っていた。

教室に緑谷を除く生徒全員が集まった後も、消太さんが来るまでの間、教室は終始騒がしくざわめいていた。先ほどの訓練のことで話が持ちきりだ。

「緑谷なかなかやるやつだったなー!」
「爆豪の攻撃もすごかったよね!」
「鏡見の個性も厄介だったな」
「てか常闇の影かっけー!」

教室のあちらこちらで反省会が行われている。私は自分の席でただその様子を見ていた。

「騒々しい……」

隣の席では轟 焦凍(とどろき しょうと)がすかした表情で言う。彼は私としては実に謎が多い人物なのだが、先ほどの訓練で魅せた個性〈半冷半熱〉は並外れた攻撃力を誇っていた。一瞬にして右手でビル全体を凍らせ、決着がつくとあっという間に左手の熱で溶かしてしまった。クラスでNo. 1の実力を持っているかもしれない。

「ねぇ、轟の右手って普段から冷たいの?」

私は体ごと轟へ向き直り話しかけた。だが、数秒後に私は声をかけたことを後悔することとなる。

「うるせぇ、ホームルーム始まるぞ。前向け」

冷たい、実に冷たい反応だった。確かに入口から消太さんが入ってくるのが見えた。時間は有限、またざわついたままで無駄な時間を使ってはいけない。

多少のショックを受けた私は、仕方なく体を元の体制に戻した。だが、視線を逸らすと今度は轟からの視線を感じた。ちらりと見ると目があうが、顎を使って“前向け”とジェスチャーされてしまった。意味がわからない。本当に謎が多すぎる男だと心から思った。

相変わらずの淡々としたホームルームが終わり、またざわついた教室に戻る。私は席を立ち、喧嘩覚悟で爆豪のところへ駆け寄った。

「おつかれ」

「……あァン?」

変わらない鋭い視線と表情。でも、やはりどこかいつもとは威圧感が違っていた。

「なんだテメェ……俺を慰めるようなマネすんじゃねぇぞ……」

爆豪はきっといま、傷ついているのだろう。怪我とかじゃない。彼の自尊心が緑谷に負けたことで深く傷つけられている。自信家だからこそ、負けることは、あってはいけないのだ。

「私も負けないからね。爆豪には」

いきなりそんなことを言ってしまった自分に驚いた。そんなことが言いたかったんじゃない、本当は少しだけ慰めるつもりだった。凄かったよって言うつもりだった。事実、緑谷と戦う爆豪は強かった。私は肉弾戦に自信があったけれど、彼は個性に恵まれた上に身体能力も高いのだ。だから負けたくないという気持ちが思わず出てしまった。

「なんだそれ。そんなこと言いに来たのかよ」

気にくわないといった表情の爆豪は荷物をまとめて立ち上がった。

「おい爆豪!緑谷待たねぇのかよ?」

切島が帰ろうとする爆豪を止めた。まだ保健室から帰ってこない緑谷をみんなは待っていたのだ。

「黙れ、クソナードなんて知るか」

そう言うと、そのまま足を止めることはなく教室を出て行ってしまった。



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