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□講評
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『ヒーローチーム!ウィーーーーーン!!!』

ビル全体へ響き渡るオールマイトの声。そのアナウンスが私の思考を完全に止めてしまっていた。私は静かにその場に座りこんだ。

「……負けた」

独り言のように力なく呟いた。いや、勝てる自信は正直なかった。それでも可能性やチャンスはあった。それを活かすことができなかった自分の不甲斐なさと甘さに落胆してしまった。

「ちくしょー、やられたぜ」

瀬呂も最後の最後まで健闘したが、あいにく肘から放たれた〈テープ〉は常闇に間に合わずに終わったのが悔しそうだ。私は強力なテープに巻かれ、ダンボール横で座っていた梅雨ちゃんに近づくとビリビリと破って謝った。騙したことがずっと胸に突っかかっていたのだ。

「梅雨ちゃん、ごめん。あの……」

「いいのよ鏡見ちゃん。あなたの個性かっこいいわ」

その一言に驚いた私は思わず言葉が出なくなった。かっこいい?そんな感想、今まで言われたことがない。

「いやでもホント鏡見すげーよ!今回はヴィラン組だったけど、その個性絶対ヒーロー向きだよなー!」

「ああ、潜入捜査で役立ちそうだな」

瀬呂、常闇も私のもとへ近づいてきた。まさかそんなことを言ってもらえるなんて思ってもみなかった。私はずっと、試合後に卑怯者と言われることを恐れていたのだ。

「でも常闇もすごかったよな!なんだよ、あのモンスターみたいなやつ!」

瀬呂はずっとテンションが上がっている。今回はあまり目立つ活躍はなかったが、なかなかいい奴かもしれない。そう考えていると、再度オールマイトのアナウンスが聞こえてきた。

『よーし!みんな講評の時間だ!切島少年を連れてモニタールームに集まってくれ!』

「あ!」

その言葉で思い出した。下の階に切島が捕縛されたままだ。申し訳ないことにすっかり忘れていた。彼はまだ今も捕縛されたままだろう。

急いで階段を降りて様子を見に行くと、口元から足までぐるぐる巻きに捕縛された切島が涙目で横たわっていた。ビリビリと捕縛テープを破り取っていく。

「ひでぇ、みんなの楽しそうな声が聞こえてたぜ……」

手足が自由になった切島は潤んだ瞳を手で拭うと、子供のようにふてくされたような顔をした。

「ごめんごめん、でも切島の活躍すごかったよ!」

その場を取り繕うように言った私だったが、さらに彼を傷つける結果となってしまったようだ。切島はがっくりと肩を落としたまま言った。

「全然すごくねぇよ。俺はお前を逃した後、秒速でやられた。常闇はその後すぐ追っていったから心配してたんだ」

秒速でやられた?とゆうことは常闇は私が梅雨ちゃんを捕縛するところも、無線で会話をしているところも見ていたのかもしれない。完敗だ。途中までは順調かと思われた作戦Bだが、実際はそうでもなかったのだ。

チームワーク、協調性とは難しいものだ。自分のことだけを考えていても勝てない。周りの個性をよく把握し、それを最大限に活かす策を練らなければいけない。

その後、モニタールームで映像を振り返りながらオールマイトからの講評を受けた。今回のベストは常闇と、意外にも瀬呂だった。

常闇は言わずもがなの冷静かつ確実性のある行動による核兵器の回収を実施。瀬呂はヴィランとしての役割をしっかりと担いトラップでの妨害、その場の守備に徹した。

私は途中の気の緩みと同情の念が先行し、梅雨ちゃんの捕縛の仕方にも甘さが出ていた。梅雨ちゃんは、隠れていてばかりで行動力に欠けていた。そして切島は合流を急ぐあまりヒーローを警戒せずに1階から駆け登る点が状況に順応できていなかったとのこと。

勝ったにせよ負けたにせよ、振り返ってこそ経験が活きる。オールマイトの言葉を胸に、私はまた1つ自分の課題に気がついたのだった。


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