Book-long-@

□いつしかの記憶
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『鏡子ちゃんの個性って、犯罪者向きだよね』

『悪いことにも使えそうだね』

『お願いだから私のことは〈模写〉しないでね』

『やべぇ!鏡見に触っちまった!』

『私に触らないで』



小学校に上がり物心がついた頃には、そんな言葉を投げかけられるようになった。

幼稚園までは周りが無個性ばかりの窮屈な生活をしていた私だが、小学校ではまわりに個性が溢れていた。

もちろん無個性の子は存在したが、居てもわずか数名。決して多い数ではなかった。ほとんどが何かしらの個性を持ち、自慢するかのように見せびらかすのが日常だった。嫉妬するほどカッコいい個性の子もいた。羨ましくて、私も友達になりたくて、自分の個性をみんなに見せた。

だが、期待していた反応とは程遠かった。みんなには個性の悪用を疑われ、気づけばいつしか誰かに触れることすら出来なくなっていた。

世界は何て残酷なんだろう。私がなりたいのは、消太さんのようなヒーローなのに。私の個性じゃヒーローにはなれないのだろうか。

私は少しずつクラスメイトから距離を置き、人との繋がりを絶って行った。自分が傷つかないように、自分のことは自分で守れるように。やがてクラスで『友達』と呼べる人間は一人も居なくなった。


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こんな大事なときに何故、昔のことを思い出すのだろう。集中しなければ、と頭を振って気持ちを切り替える。

私の隣で口を塞がれた状態で捕獲されている梅雨ちゃんの右耳からそっと無線を外すと、今度は蛙吹 梅雨を〈模写〉し変貌した。

無線の発信ボタンを押し、彼女の特徴的な喋り方を真似して常闇へ言った。

「常闇ちゃん助けて、5階に鏡見ちゃんが来たわ。瀬呂ちゃんと2人を相手になんて出来ない……」

先ほどと同じ手口だ。横では瀬呂がゴクリと唾を飲んで聞いていた。

『……わかった。5階の階段で落ち合おう』

そう言って無線から返事が返ってきた。すべては作戦通りだ。あとは常闇が来たところで私と瀬呂、時間差で追いかけて来るであろう切島の3人で包囲すれば捕獲出来る。私はまた自身の姿へ戻ると、切島へ無線を繋いだ。

「切島、聞こえる?これから常闇が5階に来る。あとを追いかけてきて」

『……』

切島からの返答がない。電波が悪いなんてことはないだろう。とても嫌な予感がして思わず声が大きくなる。

「切島?ねぇ切島ってば‥‥‥!」



カッ‥‥カッ‥‥カッ‥‥

この緊張感の中に相応しくない音が響く。足音だ。逃げも隠れもしない様子で、少しずつこちらへ近づいてくる。

「おい、鏡見……まさか」

瀬呂のまさかは当たっていた。階段を足音を立ててゆっくりと上ってきたのは、常闇だった。切島から返答がないことが、その予想を現実のものと裏付ける。

「常闇……切島は?」

私の額にも汗が滲む。 聞くまでもなかった。答えは自ずとわかっているのだから。

「捕獲した」

そう冷静に言う常闇は、ちらりと私の足元で座り込んでいる捕獲された梅雨ちゃんを見つめた。

作戦なんてそうそう計画通りに行くものではない。だからこそ、何通りもの策を練る必要がある。それでも、私たち3人で出来ることは少なかった。

「時間もない。終わりにしよう。飛べ〈黒影-ダークシャドウ-〉」

『アイヨ!』

常闇がそう言うと、背後に控えていた黒く具現化した影は忠実に常闇の体を持ち上げ、私や瀬呂の上空をふわりとと飛び越えさせた。あまりに意外な軌道を進んだことに驚き、完全に不意を突かれてしまった。

「やばい……!」

そう言って常闇の背中を追いかけるが、もう核兵器は目の前だった。最初に瀬呂が仕掛けたトラップも残酷過ぎるほど難なくすり抜けていく。

「瀬呂……!」

「わかってる!!」

もう足では追いつけないと判断した私は、瀬呂の個性〈テープ〉が間に合うのを信じるしかなかった。世界がまるでスローモーションのように動く。

『ヒーローチーム、ウィーーーーーン!!!』

時が止まったようなビルの中に、オールマイトのアナウンスが響き渡った。惜しくも瀬呂の〈テープ〉は届かず、常闇に核兵器を回収されてしまったのだった。




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