Book-long-@

□地味ーズ参上
1ページ/1ページ



「よーし!君らにはこれから“ヴィラン組”と“ヒーロー組”に分かれて屋内戦を行ってもらう!」

ヒーロー基礎学最初の授業。それはいきなりの戦闘訓練だと言う。5階建てのビルのどこかにある核兵器を、ヒーロー組は時間内に回収するかヴィランを捕まえれば勝ち。ヴィラン組は制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえたら勝ち。実に単純なルールだ。

対戦相手とチームはくじ引きにより決められた。私は瀬呂 範太(せろ はんた)と切島 鋭児郎(きりしま えいじろう)の3名でヴィラン組となり、対戦相手のヒーロー組は蛙吹 梅雨(あすい つゆ)と常闇 踏陰(とこやみ ふみかげ)の2名に決まった。

人数にハンデがあるように思えるが、どうやらそれに釣り合うだけのハンデが用意されているらしい。ヴィラン組は核兵器を守る1名を除き2名は違う階に配置されバラバラでのスタートとなるようだ。人数が多いからといって余裕綽々という状況ではなかった。

各チーム開始前に5分間の作戦タイムが設けられる。今の今まで、同じクラスとはいえ一度も会話をしたことがない3名は、お互いのことをよく知らないでいた。

「こりゃチームワークが大事だな!みんなの個性ちゃんと知っとくべきっしょ!」

そう言って切島は両手を胸の前まで上げると、個性を発動してみせた。何やら、手がゴツゴツと石のようだ。

「俺の個性は〈硬化〉。とにかく硬い!地味とかゆーなよ!」

ハハッと笑う彼の表情はどこか切なげだ。なんだが、自分の個性に自信がないような表情は、上鳴と重なる部分があった。

「私も地味だから大丈夫。個性は〈模写〉。触った人の姿・声・個性を模写することが出来る」

説明をしながら私は切島の肩をポンと叩き、瞬間で切島鋭児郎の姿に変わると硬化した手も再現してみせた。

「すげー!かっけー!」

男はこうゆう個性に憧れるのだろうか。2人とも物珍しそうな目で偽物である切島鋭児郎の姿をテンション高めに眺めていた。

「で?瀬呂は?」

私はすぐに姿を元に戻すと、時間を気にして話を進めた。

「俺は〈テープ〉だ!ごめん、俺が一番地味かも」

そう言って彼は肘からテープ状の物体をシュルルと出した。これはトラップに使えるな、と考えていると瀬呂は寂しそうに言った。

「俺たち、地味ーズだな」

確かに3人とも地味だ。だからと言って負けが確定したわけではない。3人は作戦タイムをぎりぎりまで使って、それぞれの個性を活かした打開策を考えることにした。



_______________




5分間の作戦タイムもあっという間に終え、ついに屋内対人戦闘訓練がスタートだ。

ヴィラン組は3名がバラバラに配置されているため、まずは合流を急ぐ必要があった。地味な3人は、集まればそこそこの力を出せるだろうが、1人で常闇と梅雨ちゃんを相手にすることは厳しいだろう。何しろ相手の個性に関する情報が少なすぎるのだ。

常闇は見た目が鳥人間、空を飛べる個性だろうか。梅雨ちゃんは蛙のような仕草が見受けられたが、どんなことが可能なのかはわからなかった。

スタートの段階では瀬呂のみ核兵器の前に配置され、守備に徹することとなった。私と切島はお互いが何階にいるのかわからない状態でバラバラに配置され、スタートが切られた。私がいるのは3階だ。まずは無線を使って核兵器の場所を確定させる必要があった。

「瀬呂、今どこにいる?何階?」

「ここは5階だ!2人とも早く来てくれ!俺1人で守りきれる自信はねぇ!」

無線から聞こえる声は、まだ始まったばかりで余裕はありそうだが既に弱気になっていた。

「俺は一階だ!てか階段かよきちぃ!待ってろ瀬呂〜!」

男2人は少し焦りがあるようにも感じられる。早く合流しなければ、と私も進む足を速めた。だが、ただ先へ先へ進めばいいわけではない。ヴィランは核兵器を守っていれば良いだけではない、ヒーローに捕獲されたら負けなのだ。核兵器も大事だが、ヒーローに極力遭遇しないように進まなくてはならない。

「こっちにまだヒーローは誰も来てないぜ!とりあえず、〈テープ〉でトラップ仕掛けといた!」

そう言う無線先の瀬呂の声を聞きながら、私は階段を駈け上がり人の気配がないことを確認しながら慎重に上層部へと進んでいった。


____
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ