Book-long-@

□除籍処分
1ページ/1ページ



「よし、揃ったな。んじゃ、これから個性把握テストやるよ」

「えええぇぇ!?」

予想もしていなかった展開に私も思わず他の生徒と同じように反応をしてしまった。誰もが今から?と、思ったはずだ。

「ヒーローになるなら入学式なんて悠長な行事、出てる時間ないよ」

消太さんは気にせずに淡々と話を進めていく。私はせっかくガイダンスの案内に目を通したというのに、という思いがこみ上げていた。

「50m走、走り幅跳び、ボール投げ、反復横跳びなどなど8種目の体力テスト、中学でもやってただろ?そのときは“個性禁止”だったろうが、今回は敢えて“個性を使用して”測定する。自分の個性を使って自己最高の数値を出すテストだ」

みんな息を飲んで話を聞いている。ワクワクしたような表情の人もいれば、不安そうな人もいる。残念ながら私は後者だった。視界に入った爆豪は、相変わらず自信にみなぎった目をしていた。

「まず、自分の“最大限”を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

そう言う消太さんの視線と私の視線が合致したが、すぐに逸らされてしまった。やはり、私が消太さんの弟子であることは伏せているのだろう。謝ってみんなの前で“消太さん”と呼ばないよう心掛ける必要がある。

「うわー!何それ面白そう!」

クラスの誰かが発した言葉。それに対して、消太さんの表情はさらに曇る。

「面白そう……か。ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

殺気とも言える不気味な空気が流れ、背筋に悪寒が走る。誰もが息を飲んで固まっていた。

「よし、じゃあトータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

「そんなっ……!!!」

私の手にも汗が滲む。『除籍』その言葉がやけに重く感じる。せっかく入れた雄英。プロへの第一歩。それが一瞬にして崩れるかもしれない。私には焦りがこみ上げてきていた。

私の個性〈模写〉はこういう時に不利である。〈模写〉自体は全く戦闘向きではないのだ。〈模写〉した者の個性と、それを使いこなせるだけの私の器が合致しなければ正直私は無個性と同じでなのである。今は〈抹消〉を模写している状態だが、これは対ヴィランには有効でも、この体力テストには到底通用しない。

私は先ほどの教室での出来事を思い出し、後悔していた。飯田くんの個性は知らないが、あのとき握手を返しておけばよかった。今更ながらそう思ってしまっていた。

「やべー!やべーよマジで!除籍は勘弁、ありえねぇ……!」

体力テストに興奮する生徒が多いなか、私の隣に立っていた上鳴は私の心のなかを代わりに声に出してくれているかのように言った。

額にはすでに汗が吹き出しており、ブツブツと呟きながら策を練る姿はなんとも頼りない。

「顔色悪いけど、大丈夫?」

あまりの動揺ぶりに思わず声をかけてしまった。いや、思わずではない。自分自身も動揺していたから、不安を共有したかったのかもしれない。

「ああ……いや大丈夫じゃねぇ!俺の個性は地味すぎてコレに向いてねぇ!」

引きつった顔が尚更痛々しい。だが、きっと私も同じような顔をしていたんだと思う。初日からつまづくことへの恐怖と、自分の情けなさに落胆していた。

「上鳴の個性はなんなの?」

「俺は〈帯電〉だ。電気を纏うことができる。ただそれだけ」

“ただそれだけ”がやけに虚しく響く。それでも私は羨ましかった。〈帯電〉は使い方によっては応用が利くかもしれない。例えば……思いつかないが、きっと〈模写〉よりマシだ。このままだと私が最下位になる可能性は大いにある。そう考えていたら私までもが気持ちが憂鬱になってきてしまった。

何か策を練らねば。私の個性でも成果を伸ばせる方法を。

私は頭をフル回転で働かせ、それぞれの競技の乗り切り方を模索するのだった。




________
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ