Book-long-@

□クラスメイト
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「あァん?俺に指図すんじゃねェよ!殺すぞ!」

「………」

教室中に響き渡る怒鳴り声に私は固まっていた。まだ教室には入っていない、ただ扉を開けただけだ。それなのになぜだろうか、もう明るい未来が想像できなくなっていた。

声の主は明らかだ。机の上に足を乗せ偉そうに座る金髪の少年がいる。その彼の鋭い視線がどういうわけか私を捉え、目が合ったことで思わず声が漏れてしまった。

「げ……爆豪……!」

明らさまに顔をしかめてしまった。彼は今日もまた威圧感を漂わせながらこちらに向かって歩いてくる。

「おおう、お前も合格したのかパクリ野郎」

自信に満ち溢れた目と数ヶ月前と何も変わらない態度。私が感じる苛立ちさえも相変わらずだった。

「パクリじゃないって言ってるでしょ」

初日からあまり絡みたくはなかったので、私はスッと横を抜けて席に着いた。今の一瞬でもう疲れが出ている。この後は入学式とガイダンス、まだ1日は始まったばかりだと言うのに先が思いやられてしまう。

「ガキじゃねぇんだから……」

席に着いて鞄を整理していると、隣の席から小さな声で聞こえた。髪色を赤と白で左右に分け、赤髪の垂れた左目側の顔は赤く火傷跡のようなものが残っている。爆豪ほどではないが、彼もまた鋭い目つきをしていた。平和な学園生活なんて夢物語だったのかもしれない。

すると、さっきまで爆豪の態度を注意していた眼鏡の少年がこちらにむかって歩いてきた。そして、右手を差し出し握手を求めながら言った。

「僕は聡明中学出身の飯田天哉(いいだ てんや)だ、よろしく!」

そう言って爽やかな笑顔を向ける彼だったが、私はその手を握り返すことが出来なかった。理由は一つ、個性もわかない人間に触れることは私にとって最も危険なことだからだ。幼少期のように個性を制御出来ないわけではない。あの頃のように意志に反して個性が出ることはないだろう。だが、何かあったときのために自分が今誰に〈模写〉出来るのかを知っておく必要があった。帰り道でヴィランに遭遇するかもしれない、事件や事故に巻き込まれるかもしれない。そんな状況でわけのわからない人の個性を使うわけにはいかないのだ。

「ごめん、ちょっとそれは無理。私は
鏡見 鏡子、よろしく」

「なっ……!」

右手の行き場を失った飯田くんは、ショックを受けたような表情のままそっと手を引き、苦笑いを浮かべながら次に教室へ入ってきたクラスメイトへまた自己紹介に向かって行った。

「鏡見……?」

会話を聞いていた隣の少年が怪訝な顔をして繰り返した言葉を私は耳にしていた。同世代で私の一族のことを知っている人が居てもおかしくはないだろう。それでも、まさか私が雄英に居るとは誰も思わないはずだ。同姓同名だと思い直してくれることを祈りながら気にしないフリをしていると、突然教室中に大きな声が広がった。

「あああああああああ!!!!」

聞き覚えのある声だ。その声は少しずつ私に近づき、机の影から現れた姿に思わず私も声を上げてしまった。

「“みねた”くん!」

実技試験で会ったゴムボールみたいなものが頭に付いた彼だ。人のことを言えないが、あんなに泣き虫だったのに合格したのかと正直驚いた。

「オイラもこのクラスなんだ!峰田 実(みねた みのる)よろしくぅ!」

試験の時と打って変わってとても元気だ。なんだか、こんなふうに自己紹介をし合っていると入学したんだと実感が湧く。まだ本当にすべてが始まったばかりだ。私はここ雄英で一番を目指す。そして必ずプロのヒーローになるんだ。

私はこの後説明を受けるだろうガイダンスの案内が書かれた紙を開き、担任の先生が来るのを待つことにした。





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