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□サクラサク
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春。
サクラサク季節。
私はついに、この日を迎えた。
雄英高校の制服に腕を通し、ネクタイを締める、それだけで気持ちが高ぶった。あの試験から数ヶ月が経ち、私は中学を卒業して今日から雄英高校に入学する。
『時間は有限』
いつも消太さんが口にする言葉だ。入学までの数ヶ月をどう過ごすかで、これからの学生生活からその先までの未来が変わってくる。だから私はあれから毎日準備に励んでいた。
他の人の“個性”だけに頼らない戦闘力と、他の人の“個性”に耐えられる体作り。仕事が休みの日には消太さんが私に稽古をつけてくれていた。
「クラスは1−Aだったな。まぁヒーロー科は2クラスしかないから迷いようがないが……迷うなよ」
鏡と向き合い気合をいれる私に、彼は頬杖をついて言う。今日も相変わらず気だるそうだ。
「大丈夫です。AかBかくらい区別つきますので」
消太さんが心配するのも無理はない。私は凄まじく方向音痴なのだ。それは過去の経験から自分でもわかっていた。そこが私の大きな欠点であり、ヒーローになるとゆう夢への妨げになっているということも。
普段は消太さんが道を示してくれる。迷子にならないように、ちゃんと正しい道へ進めるように。でも、高校に入る今いつまでも頼ってばかりでは居られないと考えていた。
「消太さん、今日は私先に行きますね!いってきます!」
そう言って私は振り返ることなく家を飛び出した。私だって出来る、学校くらいまともに通えるんだ。走るたびに上下に跳ねるリュックと、左右に揺れる黒髪が桜道を駆け抜ける。高揚した感情が抑えきれないまま、河川敷を走っていった。
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雄英高校入学式。
門にはでかでかと段幕が掲げられている。無事到着できた安心感と、再びこの門を潜ることのできる喜び。口元が緩んで仕方がなかった。
あの試験で一体どんな人たちが合格を手にしたのだろう。爆豪勝己、彼はきっといるだろう。何なら上位成績のはずだ。「みねた」くんはどうだろうか、微妙なところである。
人がゾロゾロと進んでいく方向が気になったが、ここで付いて行ったらいつもと何も変わらない。私はリュックから案内図を取り出し確認を始めた。
「うーんと。1ーA、1ーA」
自分の今いる場所とクラスのある校舎を捜し、手に持った案内図を回転させ、自分の進むべき方向を模索する。グルグルと回転し続ける案内図をみてか、背後から誰かが私に声をかけた。
「何かお困り?」
突然のことに驚きビクンと体が跳ねる。振り返るとそこには深緑色の髪を垂らし、大きな目でこちらを見つめる女の子がいた。
「私は蛙吹 梅雨(あすい つゆ)、梅雨ちゃんて呼んで。何かお困り?」
とても純粋そうな瞳でこちらを見つめてくる彼女。不思議と警戒心は一瞬にして溶けていた。
「あの……1年A組に行きたくて」
そう言って私が案内図を指差すと、ニコリと笑って右方向を示してくれた。
「あなた1ーAなの。私も同じクラスよ、よろしくね。教室はこっちよ」
彼女は優しく笑うと、そのまま教室まで案内をしてくれた。人がたくさんいる廊下、たくさんの教室、長い長い階段。
きっと一人ではたどり着けなかっただろう。冷静に考えると彼女は私と同じクラスだと言っていた。彼女もヒーロー志望なのか。さすがである、とても親切だ。教室まで迷うことなく連れて行ってくれた。
「ここよ」
到着すると、そこには確かに『1ーA』と書かれた教室があった。それにしても大きすぎる扉だ。10メートルはくだらない高さである。
また今日から新しい学校生活が始まる。自分でも少し緊張しているのがわかった。高鳴る胸を押さえながら、大きな大きな扉を開いた。
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