Book-long-@
□通知
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相変わらずの真っ暗闇。
そう、ここは消太さんの部屋だ。
普段はあまり入ることのないこの閉鎖された一室だが、今日の私にはとても落ち着く場所だった。
試験が終わって帰ってきてからずっとここにいる。今、何時だろうか。光が差し込むことのないこの部屋にいるせいか時間の感覚がなく、未だに消太さんは帰ってこない。
負傷した左腕は、あの後〈治癒力の活性化〉の個性を持った雄英関係者に措置してもらい、今は完全に元に戻っていた。
怪我は回復したはずなのに、さっきから何度もため息が漏れてしまう。今日の試験を思い出せば思い出す程、自信が無くなっていくのだ。最初は順調だった。だが、後半はどうだったろう。不安と後悔で今にも胸が押しつぶされそうだ。
暗闇の中で、愛猫のミケが私を慰めるかようにすり寄ってきた。柔らかく暖かい体を、毛並みに揃えて撫でる。この暗闇はいろんな記憶を呼び戻していた。
ガチャ。
「なんだ鏡子、お前がこの部屋に籠るなんて珍しいな」
隣の部屋から入るオレンジ色の光を背中から浴びたその姿に、思わず涙が出てしまった。やっと帰ってきたんだ。
「また泣いてたのか、試験の結果が不安だったか?」
消太さんには何でもお見通しだ。だが、“また”とは言われたくないのも思春期の女心とゆうやつなのだろう。
「ほら、結果だ」
彼の手にあった封筒、それは今日の合否の通知書だった。本来ならば試験から数日で郵送されるはずだが、雄英高校の教師として試験官を務めていた彼は発送せずに持ち帰ってきてくれたのだった。きっと私がこの状態であることを見込んでのことだ。
私は震える手で、彼の手から封筒を受け取り、恐る恐る封を解いていった。ビリビリという音が、静かな部屋にやけに大きく響く。こんなに軽いはずの紙なのに、なんだかとても重く持っていられないくらいだ。
「……ごう、かく。合格だ……」
声がうまくでない。片言の日本語だったが、今はそんなことどうでもいい。もう、この数グラムの紙ですら持っていられなかった。“合格”と書かれた通知書は、ヒラリと床へ落ちた。
「ずっと見ていた。後半5分は獲得ポイントがなくあのままだと不合格の可能性もあった。だが、最後に2人の受験生を崩壊から助けたことで“救助活動(レスキュー)ポイント”が加算されトータル52になった。つまり、合格だ」
淡々と話す解説があまり頭に入ってこなかった。手から離れた通知書の『合格』の文字が、今も目の前に浮かんでいた。
「おめでとさん。頑張ったな、鏡子」
ゆっくりと顔を上げ、彼の顔に視線を送る。そこには見慣れた姿があったが、目はいつもよりずっと優しかった。
“頑張ったな”
きっとその言葉が欲しかったんだ。私は一瞬にして理解した。その言葉に安堵した私は、“また”と言われてもいい。子供扱いされてもいい。頬を伝う涙を拭うことなく彼の胸へ飛び込んだのだった。
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