Book-long-@

□自己犠牲の精神
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ドカンッ!!!!
ボカンッ!!!!

ひっきりなしに鳴り続ける爆発音。爆豪勝己の個性〈爆破〉は本当にヒーロー向きの派手な個性だ。そして、この戦闘力とタフすぎる体力。他と格が違うのが一目でわかる。

だが、そんな彼にも相当の疲労が見て取れた。息が上がり、汗が滴り落ちている。おそらく今までの時間、たくさんのヴィランを稼働不能にしたのだろう。威力がまばらで、巨大ヴィランへのダメージはあまりないようだ。

そして感情が前へ前へと先走っているからだろう、周りが見えていなかった。爆風が広がるたびにヒビが深くなるビルの存在に気がついていない。

そして、そのすぐ側で腰を抜かしている小柄な少年の姿を。

『残り3分〜〜!!』

遠くではさらに縮まった残り時間を告げるアナウンスが流れる。だが、そんなことはもうどうでもよかった。ただ、無我夢中で走る。もう、あのビルは限界だ。崩れてしまう。


ドガガガガガガガガッッッ!!!
ドカンッッッ!!!
ガガガガガガガガッッッ!!!


もくもくと空へ昇っていく灰色の煙。高層ビルが崩れ落ちて生まれたものだった。そして、その下では巨大ヴィランが下敷きになっている。

いつの間にか倒れていた自身の体をゆっくりと起こすと、横で涙を流しながら震える小柄な少年が目に入った。

「……間に合ってよかった」

胸元に『みねた』と縫われたジャージはだいぶ汚れているが、外傷はなさそうだ。彼もまた、ヒーロー志望とは思えない風貌だった。身長が余りにも小さいのだが、同い年なのだろうか。

少し離れたところでは、呆然としている爆豪勝己の姿が見えた。

「それがてめぇの個性か!!!」

さすが、ここまでポイントを重ねるだけはある。頭の回転も早いのだろう。私の姿をみて状況を把握した彼は、眉間にしわを寄せ鋭い視線を向けながらズカズカとこちらへ歩いてきた。

ビル崩壊の瞬間、“みねた”くんを右手の捕縛武器を使って助けた。それと同時に個性を使って爆豪勝己の上空に倒れていったビルを〈爆破〉したのだ。

「これが私の個性〈模写〉。最後に触れた者の姿・形・声、そして個性までも写し取って使用することできる」

そう言ってビル崩壊と共に変貌していた爆豪勝己の姿から元の私へと戻った。目の前に自分と同じ姿形の人間が居て、驚いたことだろう。だが、彼は冷静だった。

「その左手はなんだよ……!」

真っ赤に火傷を負った左腕を抑えていた私を見て彼の表情は意外にも曇っている。

校門で初めて彼に会った時、去り際に肩が触れたことで『爆豪勝己』を写し取っていた。だが、見た目や個性を写せてもその体本来の作りまでは〈模写〉できないのだ。これがこの個性の大きな弱点。つまり私の手や腕は彼の〈爆破〉の衝撃に耐え切れなかったのだ。指先から肘にかけて焼けただれ、もはや力は入らなかった。

「うわぁぁぁぁ!怪我してる!オイラのこと助けたから!ああああ!」

“みねた”くんを助けて受けたダメージではないのだが、勘違いしてさらに大泣きしている。さっきは恐怖で泣いていたのだろうが、今は私の左腕を見たことで涙が出てしまっているようだ。その横で爆豪勝己は気にくわないと言った顔でこちらを見つめている。

「これくらい大丈夫だよ。崩壊に巻き込まれなくてよかった」

明らかに強がって笑顔を作った。もうどうせ残り時間はない。このままタイムオーバーを待とうと、仰向けの体勢に戻すと、ギギギという嫌な機械音が聞こえてきた。

ビルの下敷きになっていた巨大ヴィランが、時間ぎりぎりでもなお私達の動きに反応し稼働を始めたのだ。崩壊したビルの瓦礫を振り払い、銃口をこちらに向けて狙いを定めている。

するとさっきまで横で泣き喚いていた“みねた”くんが、自らの頭部に生えたゴムボールのようなものをもぎ取っては巨大ヴィランに向けて投げつけて行った。

「やめろやめろやめろぉ!うあああぁぁ!!」

ポポポポポッと音を立て、もぎ取っては生えてくる不思議な頭部のボールは巨大ヴィランに当たるとそこから跳ね返るわけでもなくへばり付いている。巨大ヴィランの足元に落ちたボールも同じくへばり付き、どうやら身動きを封じているようだ。それが銃口の中にも入ったことで、発射されたレーザーが出口を塞がれ銃口内で爆発し、こちらに攻撃が及ぶことはなかった。

『終了〜〜〜!!!』

演習場に終わりを告げるアナウンスが流れる。雲ひとつない青すぎる空が今日はやけに残酷に感じる。まるで私をあざ笑っているかのようで、全く清々しく感じられなかった。

残り5分間、ほとんど何も出来なかった。結局トータルポイントは30。これが多いか少ないかはわからないが、不安はもちろん消えることなく、後悔ばかりが増幅していった。

「やっと終わったぁぁぁ!怖かったぁぁぁぁ」

“みねた”くんは試験が終了してもなお、泣き続けていた。頭からは少し血が出ている。心配が顔に出てしまっていたのだろうか、私の視線を感じた“みねた”くんはグスンと鼻をすすりながら続けた。

「ああ、これくらい大丈夫。オイラの個性はもぎ取り過ぎると血が出ちゃうんだ」

腕で血を拭うと、やっと落ち着いたのかニコリと笑った。私は彼に握手を求めて右手を差し出した。

「ありがとう、君のおかげで助かった」

“みねた”くんは一瞬顔を赤らめ、照れたような仕草で手を握り返してくれた。

すると、ずっと眉間にシワを寄せたままの爆豪勝己が横にドサっと座った。明らかに機嫌が悪そうだ。

「……気にくわねぇ。俺の個性パクリやがって」

視線は私に向けられておらず、稼働停止している巨大ヴィランを見つめている。側面の一部は私が放った爆破で大きく凹み、黒く跡が残っていた。

「パクリじゃなくて〈模写〉。まったく〈爆破〉だなんて、とんだ個性だね。お陰で腕が吹っ飛ぶかと思ったよ」

痛みに引きつる顔を無理に笑顔に変え、嫌味を言った。本当は少し嫉妬していた。爆豪勝己はあの〈爆破〉に耐えられる体を持っている。きっと努力したのだろう。だが、私はこの有様だ。まだまだ私にはやるべきことがある。

チッという彼の舌打ちで我に返る。やるべきことが明確になった、気づくことができた。そんなことを考えていたら、不思議と苛立ちはなかった。

「あっ!関係者の人だ!おおおい!おおおおおおい!こっちにケガ人が居ますぅぅ!!!」

“みねた”くんは、遠くに見える見回りの試験官を見つけると、小さな手を大きく振って救助を呼んでくれたのだった。




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