Book-long-@

□カウントダウン
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高いビルに広い道路。見通しは悪くない。街の至る所でヴィランが稼働不能になる音が聞こえている。先ほどの爆豪とかいう少年だろうか、爆発音と共に「死ねっ!」という声がここまで聞こえてくるのがどうにも気になるが。

ヴィランは町中至る所におり、視界に入っているだけでも五体。私はそびえ立つビルの影に身を沈めた。捕獲は私の得意分野である。

腕に巻いてある強度抜群の包帯のような特殊な布を解き、ヴィランに向かって走り出す。ヴィランは人の動きを察知するとこちらに襲いかかってくるようだ。動くたびに銃口が向けられるが、そこから発射されるレーザーを交わして少しずつ近づいていった。

そして隙を見てはヒラヒラとなびく包帯をヴィランに巻き付け捕獲していった。これは私の個性ではない。消太さんからもらったものだ。私の個性を見た彼が、たとえ攻撃が出来ない状況になっても自分を守れるようにと持たせてくれた『捕縛武器』で、私の宝物だ。

15ポイント、20ポイント、30ポイント、、、次々とヴィランを捕らえポイントが加算されていく。周りの受験生もそれぞれの個性を活かし、次々とポイントを重ねているようだ。

『残り5分〜〜!!』

遠くからカウントダウンを伝えるアナウンスが聞こえた。あと半分の時間があるとはいえ、半径100メートルの範囲にはほとんど稼働しているヴィランは残っていなかった。片っ端から多くのヒーロー志望者が倒しているのだ、当たり前である。移動時間を含めると前半のようなポイントは見込めない。

少しずつ疲労と焦りが蓄積されていくのがわかるが、ヴィランが見つからないのでは話にならない。戦闘音の少ない方向へ走り、ヴィランを探す。1ポイントでもいい、なんでもいいから出てきてくれ。そう思った時だった。


ドガガガガガガッッッ!!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!


軋むような大きな音とともに目の前に突如として現れた巨大なヴィラン。それは今まで捕らえたサイズの5倍、いや10倍はあるだろうか。周りのビルを超える大きさに、さすがに足がすくんでしまった。

「なっ、なに、あれ……!!」

周りにはほとんど人はいない。明らかに今までと違うヴィランの登場に受験生達は逆方向へ逃げているからだ。これは明らかに規格外だ。圧倒的脅威を目の前にし、逃げていく受験生を見たら自然と自分の足も後ずさりをしていた。
すると突然、巨大ヴィランに向かって飛び出す少年がいた。またアイツだ。

「オラァァァァァァ!!!」

ボカンッ!という爆発音が町中に響き渡り、爆風と共に煙が立ち込む。が、巨大ヴィランにはあまり効いていないようだ。その場からピクリとも動いていない。

「なにしてる!それはギミック、倒しても点は入らないでしょ!」

彼の掌から生み出した爆発は確かにすごい個性だ。爆風で周りのビルにまでヒビが入っている。だが、得点の入らないこのヴィランと戦う意味がどこにあると言うのか。

「指図するんじゃねぇよ!俺は目の前の敵から目を背けねぇ!」

その答えを聞いてハッとしてしまった。不覚だ。彼の言う通りである。今は試験。だが、これが現実だったら?自分より強そうな敵が目の前に現れたからって目を背けて逃げ出すのか?
答えはNOだ。それではヒーローは務まらない。

次の瞬間、私の足は走り出していた。





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