Book-long-@

□出会い
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やっとこの日がきた。決戦の時。

ここは雄英高等学校入学試験会場。私が目指すのはもちろん「ヒーロー科」。数多くのプロのヒーローを輩出している名門、雄英高校ヒーロー科の倍率は凄まじい。

今日はその一般入試の実技試験。門の外にも中にも人、人、人。外見から個性が溢れている人や威嚇するかのように自分の個性を見せびらかしている人、様々いる。

私は人と関わるのが苦手だ。親の元で暮らしていないってことは、つまりいろいろな事情があるわけだけど。そもそも人との繋がりを持たないように生きてきたからだ。しかし、そんな日々は突如として覆されることとなる。

「おい!そこ邪魔だ!どけ!」

突然聞こえた背後からの罵声。振り向くと、金髪の少年がこちらを睨みながら歩いてくる。

「どけっつってんだろうが!俺は今ムカついてんだよ!道を開けろ!」

なんて理由だ。まるで子供じゃないか。そう冷静に思いながらも苛立ちがこみ上げるのを感じた。私は少々短気なところがある。それは自覚していた。さらに自分を曲げることが大嫌いだ。だから私は周りの人達のように道を開けるような真似はしないでいた。

「あぁん?なんだてめぇ、ナメた真似してると殺すぞ」

ヒーローを目指しているのかサポーターを目指しているのかは知らないが、いずれ平和を守る仕事をする人間とは到底思えない発言である。

「君、本当に雄英志望?名前は?」

そう問う私と彼の間にほんの少しの沈黙、いや睨み合いの時間が流れた。

「……爆豪 勝己(ばくごう かつき)だ、覚えとけモブ野郎」

沈黙を破ったのは彼だった。鋭い視線を私に向けたまま、チッと舌打ちをすると私の肩にドンとぶつかりながら歩いて行ってしまった。彼が入って行ったのは、私が向かう先と同じヒーロー科の試験会場。

彼もヒーロー志望だったのか。舌打ちのお返しに彼が入って行った試験会場の入口をキッと睨み、少し時間を置いてから会場へ向かって行った。



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『アーユーレディ!?YEAHHH〜〜〜〜!!』

試験会場に異様なアナウンスが流れる。まるでDJのようなテンションの男が、これからの試験内容について説明している。が、キャラが濃すぎて説明内容が全く頭に入ってこない。仕方がないので手元に配られた案内のプリントを読むことにした。

10分間、模擬市街地の中で仮想のヴィランをとにかく倒せばいい。難易度の違うヴィランが三種類、それぞれ得点が異なるようだが片っ端から倒して得点を取るというルール。中には得点にならないヴィランも放たれるようだが私には何でもよかった。

だいたいのルールは理解出来た。あまり頭で考えるタイプではないので、とにかく目の前に現れた敵を倒してポイントを稼ぐ。単純だが、そうすることに決めた。

少し耳障りだった説明の時間が終わり、自信と緊張感に満ち溢れた少年少女はゾロゾロと各自指定された演習場へと向かう。そこは敷地内のはずだが、驚くべき広さの街並みが広がっていた。もちろん模擬市街地だから人はいない。

「お前も同じ会場だったか。仮想ヴィラン以外への攻撃禁止のせいで、潰せねぇのが残念だぜ」

聞き覚えのある嫌な声が、またしても背後から聞こえてきて振り向いた。そこにはやはり先ほどの金髪少年、爆豪勝己。

「君の言葉遣い、凄く嫌い」

私はそれだけ言うと、視線を前へ向けこれからの試験に集中することにした。だが、横に並んで立つ少年はさらに言葉を続ける。

「ポイント数で競おうぜ。ま、お前が合格点に届くかも定かじゃねぇけどな」

カチンと来る言い方と、彼の全身から溢れ出す自信にまた苛立ちを感じながらも、視線は動かさず前を見据えたままでいた。

すると突如、演習場内に試験開始のベルが鳴った。その瞬間、彼の手からは爆発音のようなものが鳴り、その勢いで飛ぶように誰よりも先へ進んでいった。

「ふぅん、なかなか派手な個性じゃん」

あまりにも派手にスタートを切った彼の背中を眺めながら、やけに冷静に呟いていた。周りに人がほとんど居なくなったことに気づいて我に返った私は、演習場内の街へ走り出すのだった。





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