Book-long-A

□情報提供
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「ごめんなA組。こいつちょっと心があれなんだよ」

物間の代わりに謝ったのは拳藤さんだった。B組の委員長であり、精神が不安定な物間をいつも宥める役割を担っている。体育祭以降、何度か話したことがあるが物間と違って彼女は“まとも”だ。

「あんたらさ、さっき期末の演習試験不透明とか言ってたね。入試ん時みたいな対ロボットの実践演習らしいよ」

「えっ!?本当!?何で知ってるの!?」

彼女の発言にA組一同は目を見開いて驚いていた。敵対視しているつもりはないが、どこかライバルのような関係性のA組とB組だ。幾ら何でも情報提供をしてくれるとは思わなかった。

「私先輩に知り合いいるからさ、聞いた。ちょっとズルだけど」

そう言って少し気まずそうに言う彼女だが、その場にいた誰もがズルイなんて微塵も思わなかった。

「ズルじゃないよ!そうだきっと前情報の収集も試験の一環に練りこまれてたんだそっか先輩に聞けばよかったんだ何で気付かなかったんだでも僕先輩に知り合いなんていないし聞く手段はなかったわけだけど……」

「気にしないで、拳藤さん」

ブツブツと小さな声で呟き続ける緑谷に少しだけ戸惑った表情を見せる拳藤さんに、私はすかさず声をかけた。緑谷のいつもの行動ではあるが、初め見た人はきっと不思議に思うだろう。

「教えてくれてありがとう。みんなすごく不安だったんだ。お互い頑張ろうね」

「ああ」

自分の世界に入りっぱなしの緑谷を横目に、私は拳藤さんへ言った。いつの間にか苛立ちも消え、私の表情は穏やかだったに違いない。すると足元に倒れていた物間は力を振り絞るような声を出して言う。

「バカなのかい拳藤。せっかくの情報アドバンテージを!こここそ憎きA組を出し抜くチャンスだったんだ……」

「憎くはないっつーの」

力なく倒れたままの物間をズルズルと引きづりながら去っていく拳藤さんの背中を私達は静かに見つめていた。

「B組の姉御的存在なんだね、拳藤さん」

お茶子が言った“姉御的存在”という言葉にやけにしっくりとくる。私は手刀を食らい未だに立ち上がれずにいる物間を遠目で眺めながら食事を再開させたのだった。



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