Book-long-A

□言葉の暴力
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期末テストへの不安が尽きない。そんななか一際余裕な表情でみんなの様子を眺めている者がいた。峰田くんだ。彼は見かけによらず9位という成績を残している。

「あんたは同族だと思ってた!」

さっきまで笑ってやり過ごしていた芦戸さんが、峰田くんには厳しく突っ込んでいた。確かに意外過ぎる。上鳴も納得がいかない様子で峰田くんを指差して言った。

「お前みたいな奴はバカで初めて愛嬌出るんだろが……!どこに需要あんだよ……!」

「世界かな」

偉そうに椅子に腰掛ける峰田くんの太々しい態度は、赤点候補組に苛立ちを与えていた。

「芦戸さん、上鳴くん、鏡見さん!が……頑張ろうよ!やっぱみんなで林間合宿行きたいもんね!」

みんなが峰田くんに対し乾いた視線を送っているのを目にした緑谷が気を使って話に入ってきた。ちなみに彼は4位だ。日頃の行いから言っても納得である。

「うむ!一緒にカレーを作ろうじゃないか!」

2位の飯田くんも委員長らしく優秀な成績のため余裕綽々だ。林間合宿行きがほぼ確定したと言っても過言ではない彼の気持ちは期末テストを前にして林間合宿に向かっていた。

そして5位の轟も、私たちの不安な気持ちがわからないのだろう。

「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねぇだろ」

とても残酷な言葉を言い放ち、あっけらかんとした表情で立っている。

「言葉には気をつけろ!」

轟による悪気のない言葉の暴力を受けた上鳴が、苦しそうに胸を抑えて顔を歪ませた。

「普通に受けてても出来ないものは出来ないの!」

私も今の言葉は胸に突き刺さっていた。轟の軽い発言は私を傷つけるには十分だった。

すると今度は、救いの手を差し伸べるべく少し離れたところから八百万さんの声が聞こえてきた。

「座学なら私、お力添えできるかもしれません」

「ヤオモモー!!」

芦戸さんは勢いよく立ち上がり、少しだけ潤んだ瞳で彼女にすがって行った。

「ヤオモモ?」

「八百万 百(やおよろず もも)略してヤオモモ!」

私の疑問に芦戸さんは即返答した。入学して3ヶ月が経つが、だんだんとみんなの仲がよくなってきた気がする。私は八百万さんの机に人が集まっていくのを少しだけ離れたところから見つめていた。



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