Book-long-A
□高揚
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「えー、そろそろ夏休みも近いがもちろん君らが30日間1ヶ月休める道理はない」
夕方のホームルームでは、淡々と話を進める消太さんが教壇に立っていた。
「まさか……!」
騒めく教室と、顔を曇らせる上鳴。消太さんの言い回しからして、次に続く言葉に期待は持てない。いつもなら、の話だ。だが今日は違っていた。
「夏休み林間合宿やるぞ」
「しってたよー!やったー!」
途端に歓声が沸く教室に少し苛立ちの表情を浮かべる消太さんを私は恐る恐る見つめていた。林間合宿が控えていることをみんな知っていたのだ、この反応は予想の範囲内である。
「肝試そー!」
「風呂!風呂!」
「花火」
「カレーだな……!」
気持ちが高ぶったクラスメイト達は、まるで休み時間のように盛り上がりを見せていた。私は黙って頬杖をつき、消太さんの顔が強張っていくのを観察していた。
「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね」
「いかなる環境でも正しい選択を……か。面白い」
「寝食みんなと!ワクワクしてきたぁあ!」
みんなワイワイと楽しそうだ。そこに加わらず、相変わらず隣で冷静に状況を見ている轟も消太さんの怒りが湧き上がるのを感じているようだ。
「ただし」
突然広がった殺気のような空気に、教室はあっという間に静まり返り全員が消太さんへと視線を移した。入学以来もう何度目かのこの流れに私は思わず口を緩ませた。
「その前の期末テストで合格点に満たなかったものは……学校で補習地獄だ」
「うそ……」
私は思わず頬杖をつくのをやめ、掌から自身の頬を離して目を見開いた。一瞬にして口元から笑みは消え、私の顔は蒼白していく。
「みんな頑張ろーぜ!!!」
切島の気合の入った声が響くが、私は絶望していた。
「合格点……補習……」
先程まで他人事のように眺めていた私が隣で固まる様子を、今度は轟が笑って見ていた。
「普通に授業受けてれば大丈夫だろ」
「そんな簡単なことじゃないよ……」
私は少しだけ涙目になりながらも掌をグッと握りしめ、消太さんの言葉を頭で旋回させていた。
「クソ下らねー」
爆豪の小さく呟いた声にさえ怒りが沸くのを感じる。彼は頭が良いから、期末テストなんて眼中にないのだろう。なんなら、下らないと思っているのは林間合宿の方かもしれない。
切羽詰まった私は、余裕を持ち合わせた爆豪を一瞬だけ睨みつけていた。
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