Book-long-A

□携帯電話
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ヒーロー基礎学を終えた後はいつも眠くなる。昼ごはんを食べ、体を動かしたから今日はいつにも増して睡魔がきている。ポカポカと温まった体は、少しだけ気だるさすら感じさせていた。

「鏡見」

教室に戻る道のりをだらだらとした足取りで歩く私を背後から切島が呼び止めた。そして振り返った私を見るなり焦った様子を見せて言った。

「お……おいおい顔やべーぞ!」

相当気だるさが表情に出ていたのかもしれない。それはまるで消太さんのようだっただろうか。切島に指摘された私は慌てて頭を振り、血液を循環させて意識をはっきりとさせていった。

「ご、ごめん!どうしたの?」

「ああ……いや、大したことじゃねぇけど聞きたいことあって」

気だるさが一転して目を見開いて問う私に少しだけ警戒したのか一歩後ずさりをしながら切島は話を続けた。

「ずっと気になってたんだけどさ、何で鏡見携帯持ってねぇの?」

「え?」

まさかその話題を突かれるとは思わず私は言葉を詰まらせていた。

「今どき携帯持ってねぇとか珍しいよな。何で?」

真っ直ぐな瞳で私を見つめる切島に私は石のように固まった体をぎこちなく動かしながら答えた。

「えっと……特に使う機会がないというか、今までも別に必要じゃなかったというか」

嘘だ。私はただ、携帯を持つことを恐れているだけだ。人との繋がりを極力持たないように、自分が傷つかないようにしたいだけなのだ。すべてがわかっていて、それでも口から出たのはただの強がりだった。

「必要だろ。今も、これからも」

そう真面目に言う切島に、私は戸惑いを隠せない。彼はそのまま話を続けた。

「俺、さっきも言ったけどヒーロー殺しの一件まじで後悔してっから。お前がピンチのときに駆けつけてやれなかったし」

私は別に切島を恨んでなんかいない。同じ都市部に居ようが居まいが、この一件には関わらなくて正解だったと今でも思う。でも切島はそれでは納得しないようだ。

「買えよ、携帯。そんで、ピンチのときには俺を呼べ!」

そう言って握り締めた掌から親指を突き立て、白い歯を見せ笑う切島の目には一点の曇りもなかった。なぜ彼がこんなにも私を気にかけてくれるのか、なぜこんなにも私を勇気付けてくれるのか、まだ今の私にはわからない。

それでも私は胸を撫で下ろしていた。いつもの切島だ。どこか吹っ切れた様子の彼は、照れたような表情をしながら歩き始めた。

「期末テストもあるし、クラスの奴らと情報共有出来るしな!」

そう言って私を追い抜かして歩いていく背中を私はじっと見つめ、小さく呟いた。

「うん……ありがと。切島」




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