Book-long-A

□レース開始
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私の組は早速レースが始まるようだ。メンバーはオールマイトの独断と偏見により決められた5人。私、切島、爆豪、峰田くん、耳郎さんである。

「何でおめぇと一緒なんだよクソがっ」

横並びになってスタート地点へ着くと、爆豪は早々に私へ向かって暴言を繰り出していた。

「ぜってぇ俺に触んじゃねぇぞ」

「はいはい、建物の被害は最小限に頼みますね」

私は爆豪に視線を送ることなく、ただ前を見据えて冷たく言い返していた。視線の先にはここが本物の工場地帯だと思えるほど精巧に作られた景色が広がっている。パイプや鉄製の板が張り巡らされている建物ばかりだ。

「オイラの〈もぎもぎ〉なら余裕だぜ!」

峰田くんは頭からもぎ取った丸い実をすでに両手に握りしめていた。あれを使ってビルの側面を登って行くつもりだろう。

「ウチ機動力ないからどうしよ」

峰田くんの奥では不安そうにしている耳郎さんがいた。彼女の個性は〈イヤホンジャック〉。耳たぶから垂れたコードを刺すことで音を探知したり、心音を音波や振動波として送り込むことができるというが、それをここで活かせるかと聞かれると、答えに困ってしまうのが本音だ。

私達はオールマイトが不確定な位置に隠れ、準備が整うまでしばらくその場で待っていた。

そしてもう一つ気になることがある。

切島がいつにも増して静かだ。いつもなら私に話しかけて来たり、爆豪と勝負の賭けをしたりするはずなのに。ただ立って、工場地帯を見つめていた。

「よーしいいぞ!スタートだ!!」

遠くから聞こえたオールマイトの声を頼りに、私達は一斉にスタートを切った。

開始と同時に爆豪は両手を後方へと向け、掌から〈爆破〉を繰り出した。

ボンッ!!ボボボボンッ!!!

私達のことを考えもしないその行動により、爆風と煙が辺りに立ち込む。少しだけ焦げたような匂いが鼻をついた。

「ったく!自己中すぎでしょ!」

私は右腕で顔の前に壁を作り、煙から自身を守るような仕草をしたあと遅れをとらないよう前方の建物へと走り飛んだ。

両腕の捕縛武器を解き、少し離れた建物の側面に取り付けられたパイプにそれを絡ませ体を引き寄せる。私の体はフワリと宙を舞い、建物と建物の間の空洞を次々と飛び越えて行った。

「はっはー!余裕だぜ!」

前方では〈爆破〉の勢いで先へ進んでいく爆豪の背中が見て取れた。彼の基礎能力はずば抜けて高い。個性の機動力も高く、次々に飛び跳ねるように建物を超えていく姿を目に捉えながら、私は彼の恵まれた個性に嫉妬していた。


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