Book-long-A

□無神経
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教室では引き続きヒーロー殺しの話題で持ちきりになっていた。ヒーロー殺しとヴィラン連合が繋がっていたこと、信念の塊とも言える思想について消太さんの予想通り、それらは多くの人の印象に深く残ったようだ。

後から判明したことだが、ヒーロー殺しの個性は〈凝血〉だった。私達が分析した通り、血液を摂取することで相手の体の自由を奪うというもの。

“ステイン”と名乗るヒーロー殺しの詳細は警察の調べにより少しずつ明らかになっていた。そしてそれらはメディアにより拡散し、様々な意見が討論されているらしい。なかにはヒーロー殺しの擁護派も存在するという。

「でもさぁ、確かに怖えけどさ。動画みた?アレ見ると一本気っつーか信念っつーか、かっこよくね?とか思っちゃわね?」

上鳴の発言に思わず私は彼をキッと睨んで言った。

「ちょっと、上鳴!」

「え?あっ……飯……わり」

ヒーロー殺しから重傷を負わせられ今も治療中の兄を持つ飯田くんを前にして、あまりにも無神経な発言である。上鳴に対して私は思わず声を荒げてしまったが、飯田くんは思いのほか冷静で、怒ったりする様子もなく静かに言った。

「いや、いいさ。確かに信念の男ではあった。クールだと思う人がいるのもわかる」

騒がしかった教室は静まり返っていた。みんな気まずい雰囲気を感じ取り、静寂が教室内に広がっている。

「ただ奴は信念の果てに粛清という手段を選んだ。どんな考えを持とうともそこだけは間違いなんだ。俺のようなものをこれ以上出さぬ為にも!改めてヒーローへの道を俺は歩む!」

ビシィ!といつものように右手を振り下ろすその姿に、みんなの表情はいつの間にか緩んでいた。

「さぁそろそろ始業だ席につきたまえ!」

教室中に響き渡るほどの声と身振り手振りでクラスを纏めるその姿。それは熱苦しさよりも、どこかかっこいい。飯田くんのかけ声に従い、予鈴前だというのに各自が着席していった。私は申し訳なさそうな視線をこちらに向けている上鳴から視線を逸らし、わざと少しだけ怒っているような表情をしてみせたのだった。

間も無く消太さんがホームルームにやってくる。私達は扉が開くのをただじっと待っていた。



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