Book-long-A

□違和感
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職場体験期間を終え、今日からまたいつも通りの学校生活が始まった。見慣れた景色に落ち着きを感じる。私は今日も消太さんと共に学校へと向かって行った。

1週間ぶりの教室。そこにはすでに瀬呂と切島の笑い声で溢れていた。

「アッハッハッハッハッ!マジか!マジか爆豪!」

入口の扉を開けると、2人がお腹を抱え、目に涙を浮かべるほど笑い転げているのが目に入った。私は教室に入るなりその異様な光景に目を奪われていた。自身の席へ辿り着くと肩からリュックを下ろし、それを机の上に静かに置いた。

「なに、どうしたの?」

「爆豪の髪型、見てみろよ」

隣の席でいつものように冷静な眼差しでそれらを見つめていた轟に尋ねると、顎先でそれを指し示しながら彼は言った。一番後ろの席で背もたれに寄りかかり、手をポケットに突っ込んでいるその轟の態度は決して良いものとは言い難い。

「笑うな!クセついちまって洗っても直んねぇんだ!」

鬼のような形相で切れる爆豪の髪型は、どこぞの会社員のようなピシッと固められた七三分けスタイルになっていた。

「ぶっ……!爆豪それ……ださっ!」

私も思わず笑いが吹き出してしまった。こんな爆豪を見るのはもちろん初めてであり、彼をイジる絶好のチャンスだと悟った。確か彼が職場体験に行ったのはNo.4ヒーロー【ベストジーニスト】のところだ。あそこで一体何があったと言うのだろう。

「おい笑うなブッ殺すぞ!」

みんなに笑われ苛立った様子を見せる爆豪を煽るように瀬呂はさらに大声で笑っていた。

「やってみろよ8:2坊や!アッハハハハハ!」

「死ねコラッ!」

ついに我慢しきれず瀬呂に襲いかかる爆豪を笑って見つめていると、私の声に気づいた切島がこちらを見たことで2人の目が合わさった。つい今さっきまであんなに笑っていたのにその表情はどこか曇っている。

みんなが教室のあちらこちらで職場体験の話で盛り上がっているなか、2人はしばらく見つめ合っていた。

何か言いたげだ。私はその真理を探るような表情で切島を見ていると、突然前方にいた上鳴がこちらを振り返って言った。

「でも一番大変だったのはお前ら4人だな!」

その話題に思わず胸がドキッと跳ね上がり私は切島から視線を外してしまった。その話題が出ることは予想していたが、正直触れて欲しくはない話である。

メディアが一斉に報道したことにより、瞬く間にヒーロー殺しの一件は世間に知れ渡っていた。署長のおかげで私達は、ヒーロー殺しに襲われた被害者であり、エンデヴァーにより救われた雄英生ということになっているが、それは新聞やネット動画でも配信されるほど世間を賑わせているようだ。

「そうそうヒーロー殺し!命あって何よりだぜ、マジでさ」

瀬呂は爆豪に雁字搦めにされつつもこちらの会話に入って来ている。

「エンデヴァーが救けてくれたんだってな!さすがNo.2だぜ!」

その話題に興味津々のクラスメイト達は一気に視線を轟へと移し、ざわざわと教室内を騒つかせていった。そんななか、切島はその雑音に紛れるように静かに私の席に駆け寄って来て言った。

「鏡見、怪我とかなかったか?」

「うーん……軽くちょっとね」

頬を掻きながら言う切島に、私は思わず強がった表情で簡潔に答えを返してしまっていた。心配をかけたくない、そんな一心だったからだ。

「俺、緑谷から位置情報来て通報したけど……助けに行けばよかったって後悔してる」

ワイワイとした声が飛び交う中、切島だけは真面目な表情をしていた。私は彼にまで心配を掛けてしまっていたことに、また反省の念が込み上げくるのを感じた。

「あとから麗日から聞いてめちゃくちゃ驚いた。まさか鏡見が都市部に来てると思わなかったし」

「うん……ちょっと色々あって。心配かけてごめん」

なんだかいつもより表情が強張っている切島に私は謝りながらもどこか違和感を感じていた。



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