Book-long-A

□隠ぺい
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家に帰るのは一週間ぶりだ。大袈裟かもしれないが、久しぶりに外観が目に入るとどこか懐かしさを感じていた。

私は鍵を開け、ゆっくりとドアを開いた。湿気じみた薄暗いこの雰囲気、決して綺麗とは言えない建物。その全てが私に帰ってきたという実感を与える。

「汚い……」

たった一週間ではあったが、やはり部屋は汚れていた。消太さんはただこの部屋で“生きていた”のだろう。でもそれでいい。私は大きな荷物を部屋の隅に置くと、口元を緩めながら散らかった部屋を片付けて行った。

「おっ、戻ったか」

部屋の奥から気だるそうに顔を出したのは、もちろん消太さんだ。今日は休日だが、外出着も部屋着もほとんど大した差のない彼は身なりを気にすることはない。眠そうで、怠そうで、いつも通りの無精髭とボサボサに伸びた髪をそのままにゆっくりと歩いてきた。

「散々な職場体験だったな」

そう言って部屋の隅に置かれた大きな荷物を私の部屋まで運んで行く。

「いい思い出とは言えませんが……でも行ってよかったです」

私は散らかった服を左腕に掛けながら消太さんを見上げて言った。

「……ヒーロー殺しとヴィラン連合は繋がってたんですかね」

「おそらくな。その思想に感化された者もいるだろう。今回の一件が報道され、少なからず一部の人間に影響を与えたのは間違いない」

そう言って消太さんは棚の上に置いてあったいつだかの新聞を手に取ると、ゴミ箱にそれを沈ませていった。それをちらりと見ながら、私は片付けを進めていた。

「……だから仮免が必要だよな」

「え?」

「いや、何でもないよ」

消太さんの声はただでさえ低く、抑揚のない話し方をするため私にはよく聞き取れなかった。だが、私の意識はすでに別の方へと注がれていた。

「あぁ!こんなにゼリー飲料のゴミが!消太さんどういうことですかこれ!」

私はゴミ箱に詰められるように捨てられたゼリー飲料の容器を見て声を上げたのだった。さっき違和感を覚えたのはこれだったのだ。新聞で押し込んだのかもしれないが、溢れかえったゴミ箱では隠しきれなかったようだ。

消太さんは頭をポリポリとかいた後、まるでそれが聞こえていないかのような表情で日差しが差し込む窓際を見つめていた。




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