Book-long-A
□社会規範
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翌日の朝、私は別室にて一夜を明かした緑谷、轟、飯田くんの病室に居た。
「冷静に考えるとすごいことしちゃったね」
私はベットの横にあったパイプ椅子に腰掛け言った。やはり負傷レベルで言えば私が一番軽傷のようだ。緑谷は足を、轟は腕を、飯田くんに至っては両腕にギプスをはめるほどの重傷だった。
「あんな最後見せられたら、生きてるのが奇跡だって思っちゃうね」
緑谷は足の負傷を見つめながら言った。
「俺らは明らさまに生かされた。あんだけ殺意向けられて尚立ち向かったお前はすげぇよ。助けに来たつもりが逆に助けられた、わりィな」
轟も自分の負傷した腕を見つめ、飯田くんに視線を移しながら言った。
「いや……違うさ。俺は……」
飯田くんが少し困惑した様子で口を開いた丁度その時だ。ガラガラと病室の扉がスライドし、ぞろぞろと人が入ってきた。
「おお!起きてるな怪我人ども!」
「グラントリノ!」
昨日の老人だ。だが、他にも知らない大人が2名続いて入ってきた。
「マニュアルさん……!」
今度は飯田くんが声を上げた。私はその名前を聞いてすぐに飯田くんの職場体験先の人であると認識した。
「すごいグチグチ言いたいが……その前に来客だぜ」
グラントリノの言葉に、思わず全員が息を飲んで立ち上がる。
「保須警察署署長の面構犬嗣(つらがまえ けんじ)さんだ」
「掛けたままで結構だワン」
グラントリノの紹介で一歩前へ出てきたのは体は人間、首から上が犬という完全なる異形系の人物だった。
「君達がヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね」
署長がわざわざ何をしに来たのだろうか。そんな疑問を打ち消すほどのインパクトを与えた外見と語尾に私は混乱していた。
「ヒーロー殺しだが、火傷に骨折となかなかの重傷で現在治療中だワン」
戸惑いを隠せない私ではあるが、彼が何が言いたいのか、薄々感付き始めていた。どうやら飯田くんも察しているようだ。
「資格未取得者が保護管理者の指示なく“個性”で危害を加えたこと、たとえ相手がヒーロー殺しであろうとも、これは立派な規則違反だワン」
その言葉に、轟と緑谷は驚いた表情を浮かべているが、私と飯田くんは思わず俯いた。嫌な予感が頭を過る。
「君たち4名及びプロヒーロー、エンデヴァー、マニュアル、グラントリノ、虎、ラグドール。この5名には厳正な処分が下されなければならない」
冷たく厳しいその言葉が重くのしかかった。こうなるのはわかっていたことだ。規則違反であること、社会規範に反すること、すべてわかった上で行ったことなのだから。
「待ってくださいよ」
「轟くん……!」
轟が眉間にシワを寄せて署長に近づくのを飯田くんは止めた。それでも轟の口が塞がることはない。
「規則守って見殺しにするべきだったって?!」
「落ち着きなよ、轟」
珍しく声を荒ぶらせる轟に、私は逆にらしくないほど冷静に宥めた。
「結果オーライであれば規則などウヤムヤでいいと?」
署長はわざとなのか意図的なのか、どちらにせよ煽るようなその発言は私すらも苛立たせた。轟を宥めておいてなんだが、私の眉間にも深くシワが刻まれ睨むように署長へ向けて視線を送っていたのだった。
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