Book-long-A

□満天の星
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気づけば星空がよく見えるベットの上にいた。夜空を埋め尽くす満天の星は、なんて無神経に輝くのだろう。私の意識は目覚めたばかりだというのにハッキリとしていた。

今日起きた出来事。脳無の出現、ヒーロー殺しとの戦い。その全てが夢であって欲しいと思うが、今ここにいる現実と腕に巻かれた包帯が私をしっかりと現実に引き戻していく。

「今……何時だろ……」

私はそう独り言を呟いて星空から視線を外し、部屋の様子を確認した。10畳ほどの部屋にベットが一つ。電気は消され、窓から入るかすかな光が部屋の中を照らしている。

そして、ベットの隣では椅子に座って腕を組みながら眠っている消太さんの姿が目に映った。

「来て……くれたんですね」

私はかすかに聞こえる寝息に少しだけ微笑み、その寝顔をみてとても心が落ち着くのを感じた。

ベットの横のデジタル時計は20時38分を表示している。数時間寝てしまっていたようだ。私はゆっくりと体を起こし、自身の掌を閉じたり開いたりしてみた。

「大袈裟だな……ほんと」

手首から肩にかけてヒーロー殺しから受けた切り傷があったと自覚しているが、こんなに包帯を巻かなくてもいいのに、と思った。

でも何故だろう、いくら強がっても心は正直だ。私の瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。ポタポタと体を包んでいる布団が湿っていく。私は震える手をグッと握りしめた。

怖かった。圧倒的な力を目の前にして、死を間近に感じてしまった。死にたくないと思った。まだやるべき事がある。生きたい、生きたいと。私は声を殺して泣いた。震える肩をそのままに。

すると、突然ふわりと優しく暖かな感触が頭を包み込むのを感じた。思わず肩の震えが止まる。ゆっくりと顔を上げると、それはやはり消太さんの大きな手だった。何も言わず、ただこちらを見つめている。

「しょ……たさん……」

私は鼻の詰まった情けない声で名前を呼んだ。怒られると思った、勝手なことしてまた危険な目にあって。でも消太さんから出た言葉は意外にも説教じみたことではなかった。

「今日は、泣いとけ」

ヒック、ヒックとひゃっくりを出しながらも私は消太さんを見つめていた。寝起きだからじゃ無い。いつもと変わらないその表情に込み上げる何かを感じた。

「なんで……」

私は話すことも難しいなか、必死で声を出した。

「なんで……怒らないんですか……」

私は涙で顔をグショグショに濡らした。消太さんが“泣いてもいい”なんて珍しいにも程がある。

「もちろん、お前の行動には問題ばかりだ。たくさんの人に心配も迷惑もかけた。でも今回は俺にも責任がある」

薄っすらと光に照らされた消太さんの顔はどこか悲しげだ。これを不気味と捉える人もいるかもしれないが、私にはわかる。何か後ろめたいことがあるのだろう。

「あの電話を、もっとしっかり聞いてやるべきだった」

そう言って視線を下げる消太さんの表情に胸が痛む。私は決して間違ったことをしたとは思っていない。友を助け、全員が無事でいられたのだから。

でもそれは結果論の話だ。もし、誰か一人でも命を落としていたら?それが私だったら?

「悪かったな……鏡子」

悲しげに言う消太さんに私は耐えられず、頭を包んでいた大きな手を自身の両手で強く握りしめた。




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