Book-long-A

□脱出
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それにしても、周りに大人が増えるだけでこうも安心するとは思ってもみなかった。ことが起きた後だから尚更だ。味方が増えることへの心強さと言ったらない。

「三人とも」

私は背後から聞こえた飯田くんの声にゆっくりと振り返った。

「僕のせいで傷を負わせた。本当に済まなかった。何も……見えなく……なってしまっていた……!」

そう言って頭をさげる飯田くんの声は震えている。どうやら泣いているようだ。

「しっかりしてくれよ、委員長だろ」

「うん……」

轟はいつものように冷静な顔つきで言った。決して冷たいわけではない。彼なりに“頼りにしてるぞ”と言いたいのだろう。私はその様子を微笑ましく眺めたあと飯田くんに笑顔を向けて口を開いた。

「でもカッコよかったよ、最後だけ」

「うん……」

ちょっと冗談を含めて言ったつもりだったが、飯田くんはただ涙をぬぐって答えるのみだった。でもきっと彼はもう無茶はしないだろう。それはもはや、言葉を交わさずともわかっていた。

「伏せろ!!!!」

突然発せられたグラントリノの声に思わず体が跳ね上がる。ドキドキと早く刻む心臓の音に戸惑いつつも、私はグラントリノに視線を送った。

バサッ!!!!

私の視界がそれを捉えた時には、上空から現れた翼の生えた脳無があっという間に緑谷を捕まえて飛び去ってしまっていた。

「み……緑谷ァ!!」

思わず届きもしないのに手を伸ばしてしまう。脳無は怪我をしている様子で、ポタポタとアスファルトに血を垂らしながら、緑谷と共に飛んでいった。どうやらエンデヴァーにやられて逃げてきたようだ。

「うわあぁぁぁぁぁあ!」

緑谷の叫び声が辺りに響く。

次の瞬間、気絶していたはずのヒーロー殺しが時を見計らっていたかのように体に巻きつけられていた捕縛武器を切り裂いて動き出した。

それはほんの数秒の出来事だった。捕縛武器から抜け出したヒーロー殺しは、近くにいた一人のヒーローの頬を長い舌で舐め、脳無が垂らした血を摂取したのだった。

「偽物が蔓延るこの社会も、いたずらに力を振りまく犯罪者も、粛清対象だ……ハァ……」

血を摂取したことで脳無の動きを封じたヒーロー殺しは、どこから取り出したのか小さなナイフで脳無の頭部を突き刺した。

「すべては正しき社会の為に」

ヒーロー殺しの不気味な声と奇妙な行動に、その場の空気は固まっていた。



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