Book-long-A

□応援要請
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飯田くんと緑谷は、ヒーロー殺しに会心の一撃を食らわせた。同時に受けた衝撃の音が鈍く辺りに響く。

「やった……!」

轟は落ちてくる飯田くんと緑谷の下に氷結で坂を作り出し、滑り降りられるよう環境を整えた。急斜面が二人を受け止め、地上まで滑らせていく。

音を立てて地面に落ちたヒーロー殺しはぐったりと倒れたまま動かない。私はその様子をしばらく見つめた後その場に力なく座り込んだ。緊張の糸が切れたせいか〈模写〉も解け、姿は轟から自身の姿へと戻っていた。

「さすがに気絶してる……っぽい……?」

氷結の上を滑り降りそのままビルの壁に頭を打ち付けた緑谷が頭を摩りながら言った。その様子を冷静な表情で見ていた轟は辺りを見回しながら言った。

「じゃあ拘束して通りに出よう。何か縛れるもんは……」

そう言って散らかったゴミだらけの路地の奥に目をやる轟に、私は片腕に巻かれた捕縛武器をすべて解いて差し出した。これならロープや縄より丈夫であり、頑丈だ。

「サンキュ。念のため武器は全部外しておこう」

私たちはヒーロー殺しの手首をしっかりと固定し、上半身をしっかりと縛り付けて拘束した。そして轟は捕縛武器の端をしっかりと手で握りしめ、ズルズルと引きづりながら路地をでていく。

緊張感から解放されると、傷の痛みを感じ始めるのは不思議な現象だ。戦闘中はほとんど気にならなかったというのに、今は身体中に痛みを感じている。それでも私の負傷は他の3人と比べたら軽いものだった。私に大きな外傷はない。

路地裏から抜け、日差しをやけに眩しく感じていると、遠くにいた小さな老人と目があった。

「む!んなっ!何故お前がここに!」

「グラントリノ!」

いきなり怒鳴り立ててきた老人に、緑谷は少しだけ顔に焦りを浮かべながら言った。

「グラントリノ?」

私と轟、飯田くんはその知らない顔に思わず顔を見合わせ、頭を傾げた。

「座ってろっつったろ!」

飯田くん以上のスピードで一瞬にして緑谷の目の前に現れたグラントリノと呼ばれたその老人は、ドスッと音を立てて緑谷の顔面に蹴りを入れた。

「ちょっと……!」

私はボロボロの怪我人である緑谷に蹴りを食らわすグラントリノを睨みつけながら一歩を踏み出すが、緑谷の手によってそれは制止された。

「大丈夫……僕の職場体験先の方なんだ」

「このご老人がか!?」

顔を摩りながら笑う緑谷に、飯田くんは思わず聞き返した。私もプロヒーローに詳しくはないが、確かにここまで歳を重ねた人が現役を続けているのは意外だった。そして、そこを選んだ緑谷にも驚いていた。

「新幹線で脳無を引き離してくれたのはこの人だよ」

なるほど、とその場で私だけが納得していた。新幹線に侵入して来た脳無が一瞬にして消えたときのことを思い出した。それは一瞬の出来事だったが、先ほどの間合いを詰めるスピードを考えると全て納得のいく話だった。

すると、今度は道路を渡った先からぞろぞろとコスチュームを身につけたヒーローらしき人物が走ってくるのが見て取れた。轟がエンデヴァーに応援要請をしたからだろう。

私は心の中で、ヒーローの遅過ぎる到着に少しだけ愚痴をこぼしていた。



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