Book-long-B

□不眠
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8月中旬。時が経過するのはとても早く、あっという間に夏休みは終わる時期だ。それはつまり、この家を出る日を目前に控えていることを意味していた。私は明日から始まる新しい生活を想像しただけで目が覚めてしまいなかなか寝付けないでいた。

「……消太さん、まだ起きてますか?」

夜0時を過ぎても全く眠れる様子のない私は自身の枕を抱きかかえたまま消太さんの部屋の扉をノックした。光を全て遮断した真っ暗な部屋からは昼間となんら変わらないボサボサの髪を垂らした消太さんが現れた。

「どうした?寝れないのか」

どうやらまだ寝ていなかったようだ。黒い寝巻きを着て闇に溶け込んだ様子の消太さんの目は、充血しているものの眠そうには見えない。私は再度、枕を抱きかかえると視線を落としながら言った。

「はい……明日からのことを考えてたら目が冴えちゃって。それで提案なんですが……今日、ここで寝ても」

「子供じゃないんだ、自分の部屋で寝ろ」

消太さんは私の言葉を遮って言うと、呆れたようにあっという間に扉を閉めようとした。私はそれを許さず、扉が完全に閉まる前に手で抑えるとわずかに開いた隙間から消太さんを説得するように口を開いた。

「いつもは子供扱いするのにこういう時だけそれはズルいですよ。それに消太さんが私をここへ連れてきた日から、一度だって一緒に寝てくれたことはなかったじゃないですか。床でいいんです……お願いします」

「ダメだ。俺は人の気配がすると眠れない」

わがままを言っているのは分かっている。消太さんが困っているのも分かっている。それでも今日の私は譲ることができなかった。明日から別々に暮らすことになる。それを考えただけで胸が張り裂けそうになる。私は譲ることができないこの状況で、黙ったまま動こうとせずにいた。すると、少しの沈黙の後、消太さんはまた呆れたように小さくため息をつくと扉を開き小さく言った。

「……ったく、じゃあ上で寝ろ。俺が降りる」

そう言ってベットから自身の枕を床に下ろすと、消太さんはすぐに床に横になった。彼が優しいのはずっと昔から知っている。私がもはや何を言っても聞かないと察したのだろうが、いつも最終的には私のわがままを聞き入れてくれる消太さんに私は最後まで甘えっぱなしだ。それでも私は嬉しさを滲ませながら子供のように笑っていた。



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