Book-long-B

□デコピン
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「雄英ヒーローもこれまでの慢心・怠慢を見直し変わっていかなければならない。俺もここを離れ、雄英の敷地内に移り住む。これなら文句ないだろ」

消太さんはそう言って私の頬に残った涙を親指で拭った。瞼が重い。きっと赤く腫れているに違いない。私は重い目を一生懸命に見開いて消太さんの目を見つめて言った。

「この家は、どうするんですか?」

2人でこの家を出て離れて暮らす、それはとても寂しいことだ。だが、思い出の詰まったこの場所がなくなることも同じく私には辛いことのように感じる。不安げに顔を曇らせる私を見て、消太さんはこの質問を予測していたかのようにフッと笑うとゆっくりと口を開いた。

「残すさ、俺達がいつでも帰れるようにな。ここが俺達の家であることに変わりはない」

その言葉に安心した私は溢れる感情を抑えながらも口元を小さく緩ませた。安堵とともに、よかったという言葉が思わず口から漏れていた。すると消太さんはまた低い声で真面目に言った。

「とはいえ、今回のことは全くもって遺憾だ。ここで失った信頼は行動でちゃんと示せよ」

「はい……ごめんなさい」

消太さんの放ったデコピンが、私の額をコツンと鳴らした。痛くはないが本当はもっと厳しく怒るつもりだったのだろう。消太さんが気持ちを凝縮して放ったものを、私は潔く受け止めていた。

「ま、これは結果が良かったから言えることだが……俺は仲間意識を持てるようになった鏡子に成長すら感じてるよ。数年前のお前じゃ考えられなかったことだ」

そう言うと消太さんは私の頭を優しく撫でた。また子ども扱いして、と言いたいところだが今日の私はそれを言う権利がないほどの態度を取っている。私は口を尖らせながらも、何も言わずに顔を赤らめていた。消太さんの右手は私の頭を優しく包み、学校で見せることのないその優しい瞳はしばらくの間私を見つめていた。




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