Book-long-A
□人徳の差
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「頼りになるー!さすが副委員長!」
芦戸さんは焦っているのか焦っていないのかわからない態度のまま、八百万さんの机と近づいて行った。
「演習の方はからっきしでしょうけど……」
そう呟く八百万さんの表情は、また元気がない。どうしたというのか、体育祭が終わったあとぐらいから様子がおかしいように思う。
「そう?八百万さんの〈創造〉はすごく強力だし万能だよ。さらにその頭脳が加わったら敵なしだよね?」
私はわざと明るく声をかけた。言っていることは全て私が本当に思っていることだ。
「そんなことありませんわ……私は全然……」
そう言って彼女は俯き言葉を詰まらせた。私がさらに言葉をかけようと口を開くと、横から耳郎さんが数学のテキストを片手に近づいてきて阻まれてしまった。
「ウチもいいかな?二次関数ちょっと応用躓いちゃってて……」
彼女は中間テストではクラスで7位だった。十分すぎる成績だ。どれだけ前向きに取り組むつもりなのだろうか。
「わりぃ俺も!八百万、古文わかる?」
そう言って調子よく話に加わる瀬呂は17位であり納得の行動である。続々と八百万さんの机に人が集まっていく。頼られるのが好きなのだろう。彼女の表情は明らさまに嬉しそうな顔へと変化していった。
「良いデストモ!」
みんなに頼られたことで、さっきとは打って変わって晴れやかに微笑む八百万さんはガタッと音を立てて立ち上がった。
「では週末にでも私の家でお勉強会催しましょう!」
「まじで!?うんヤオモモん家楽しみー!」
八百万さんのせっかくの救いの言葉に、芦戸さんは別の意味で興味を示している。
「ああ!そうなるとまずお母様に報告して講堂を開けていただかないと……!」
「講堂!?」
私は彼女が何を言っているのか、一瞬理解が出来なかった。でも冷静に考えたことで、生まれの違いという現実を感じ始めていた。
「皆さんお紅茶はどこかご贔屓ありまして!?我が家はいつもハロッズかウエッジウッドなのでご希望がありましたら用意しますわ!」
「あ!?」
言っている意味がわからない。紅茶と言えばリプトンだろう。だが、そんなことを言えるはずもなかった。
「必ずお力になってみせますわ……」
私はやる気を漲らせる八百万さんをしばらく見つめた後、ワイワイと群れるその机から離れていった。話がついていけないのだ。私は席に戻ると少し離れたところにいる切島と爆豪に目をやった。
「この人徳の差よ」
何を話しているのかと思えば、切島から爆豪へ意地の悪い冗談を言っているようだ。
「俺もあるわ、てめぇ教え殺したろか」
3位の爆豪と15位の切島。順位では大差が開いているが、その様子はどこか切島が優位に立っているように思えた。
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