Book-long-@

□静かな夕食
1ページ/1ページ




USJ事件から2日で授業が再開し、2週間後の体育祭開催が発表された。さすが雄英、やることなすことすべてが最高峰である。

そこに勤める教師陣も同じだ。あの大怪我からたった2日で退院した消太さんは、今日から自宅療養となる。毎日リカバリーガールの保健室へ通わなければならないらしいが、短期間での退院はきっと彼女の心意気だろうと私は思っている。

「ご飯、柔らかめに炊きました」

両手が使えない消太さんは、もちろんご飯も自分で食べることは不可能だ。それに顔面を負傷した彼は硬いものがまだ食べられない。

「ああ、悪いな。ついでに包帯も取ってくれ」

顔に巻かれた包帯は、1日一回は傷に薬を塗って巻き直さなければならないらしい。私は椅子に座ってじっとしている彼の顔に巻かれた包帯をスルスルと解いていった。

現れたのはまだ傷を頬に残した状態の消太さんの顔。2日ぶりに見た気だるそうな表情と無精髭は、どこか懐かしい。私には何だかうれしいような、悲しいような複雑な感情が込み上げていた。

私は少しずつご飯をスプーンですくうと、消太さんの口へ運んで行った。リカバリーガールの個性を持ってしても、急激な回復は見込めないそうだ。だから今はお粥のような米をしばらくは食べなければならないのだった。

「体育祭が控えてるってのに、お前の鍛錬見てやれねぇとはな」

そう伏し目がちに言う消太さんだったが、私は全然不満などなかった。

「いいんです、消太さんは治すことに専念してください」

雄英にある複数の鍛錬場には様々なシチュエーションに合わせた器具や設備が整っている。消太さんに教わりたいことは確かにあったが、自分自身で努力することも可能だった。

「それより、聞きたいことが」

私の声に、消太さんは口に入れたものをゆっくりと噛みながら黙って視線をこちらへ移した。

「目は……。目は、どうなんですか」

怖かった。聞くことがすごく怖くて言おうか悩んでいた。それでも聞かずにはいられないことだった。ずっと胸につっかえている不安。包帯がない彼の顔を見ていたら思わず聞いてしまった。

「見えてるよ」

そうじゃない、見えているのはもうわかっていることである。私が聞きたいのは個性がどうなったのかということだ。“後遺症”。そこが一番心配しているところなのだ。

「心配すんな。まだ個性使えるほど回復しちゃいねぇが、今見えてるんだから大丈夫だろ」

また心を読んだかのように彼は答えた。そう言われ、思考を巡らせて不安を消そうとしたが、結局腑に落ちることはなかった。

「雄英体育祭はお前の将来に深く関わってくる。時間を有効に使えよ」

その言葉はやけに重みを感じた。勝負事で負けるつもりはない。だが、私の将来は消太さんと共にある。プロヒーローの資格を取ることが目標であり、事務所に入ることは眼中にないのだ。

プロヒーローがたくさん観戦に来る雄英体育祭はアピールするにはうってつけのチャンスだと言うが、私はスカウトに関してあまり唆られることはないのだった。


_____
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ