Book-long-@

□敵情視察
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「なにごとだぁぁぁ?」

放課後、ホームルームを終えて帰り支度を済ませたクラスメイトの麗日 お茶子(うららか おちゃこ)は教室の扉の前でいきなり叫んでいた。

まだ席に座っていた私がその声に反応して顔を上げると、廊下にはたくさんの生徒がひしめき合って教室の中を覗き込んでいるのが目に入った。

「なにあれ」

その異様さに思わず顔をしかめて私は呟いた。他クラスの顔触れを全く知らないせいか、その人だかりが何年生なのかも私には判断ができない。

「敵情視察だろ」

隣の席では轟が答える。そんな彼もあまり興味はなさそうだ。気にせず自分の帰り支度を進めていた。すると今度は、麗日より先へ足を進める爆豪の姿が目に入った。

「視察とか意味ねぇからどけ、モブ共」

予想を裏切らない爆豪の態度は、案の定群衆の反感をしっかりと獲得して行った。廊下からはヤジが飛ぶ。当たり前の結果である。

「知らない人のことを、とりあえずモブって言うのやめなよ!」

すかさず止めに入った学級委員長の飯田くんだが、それはもうことが起きた後だ。ほとんど意味はなさなかった。すると、群衆の中から一際目立った高身長の少年が前へと出てきた。

「どんなもんかと見に来たが、ずいぶん偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ」

席から傍観している私だが、相手の言っていることは最もだった。あんな態度をされていい気がする人なんていやしない。私はその少年の意見に同感だった。

「鏡見ちゃん、帰りましょ」

そう言って私の席に近づいたのは梅雨ちゃんだ。彼女もこの騒動には全く興味を示していない。しっかりと鞄を持って帰る準備は万端のようだ。

「うん、そうだね」

私も席から立ち上がると、いつもより、重いリュックを背負った。すると、先ほどの他クラスの生徒の声が私の耳に入った。

「敵情視察?少なくとも俺は宣戦布告しに来たつもり」

その少年の言葉に私は思わずその場から動こうとした足を止めた。宣戦布告、それなら話が変わってくる。私は一瞬にして少年に対して敵対心を抱いたのだった。あの隈入りの高身長、何クラスの誰なんだろう。

「鏡見……お前、爆豪と差ねぇぞ」

轟の声が聞こえたことで、彼へと視線を移すと、彼は自身の眉間を指差して私に何かを示していた。その様子にすぐさま我に返り、私の眉間に深くシワが寄っていたことに気がついた。爆豪と差がない、それはあってはならない事実。私は慌てて頭を振って自我を取り戻していた。

再度、教室の扉に目をやると爆豪が群衆をかき分けて帰ろうとしているところだった。それを切島が必死に止めている。

「待てコラどうしてくれんだ!おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねぇか!」

爆豪に向かって強気で物事を言える人は少ない。彼は怖気づくことなく爆豪の帰還を必死に止めている。

「関係ねぇよ。上にあがりゃ関係ねぇ」

そう当たり前のように言う爆豪に、一瞬にして教室にいたA組メンバーの表情は変わった。珍しく、あの爆豪が冷静に正論を述べたのだ。

「く……シンプルで男らしいじゃねぇか」
「一理ある」
「確かにな」

私を含む傍観組は彼の一言に納得してしまっていた。自信家の爆豪らしくもあり、逆に冷静すぎてらしくない。それでも、一瞬だけ彼がかっこ良く見えたのだった。

「……帰ろう、梅雨ちゃん。じゃあ轟、また明日ね」

私はそう言って比較的群衆の少ない後方の扉へと歩き進んで行った。おう、と轟の小さな声が背中から聞こえた。私と梅雨ちゃんが帰るのを見て、上鳴も駆け寄ってくる。

「俺らやべーぞありゃ」

カバンを持って帰る気はあるようだが、どうやら彼の野次馬精神はまだ働いているらしい。視線は安全に爆豪達のやり取りへ釘付けだった。


雄英体育祭は2週間後だ。時間は有限。やれること、やらなければならないことは山積みだ。私は群衆をかき分けながら頭の中で自分の課題と対策を整理するのだった。



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