『文豪ストレイドッグス』
□『第2話』
1ページ/5ページ
久しぶりに嗅ぐ畳の匂いで目を覚ました敦は、見覚えのない和室の布団で寝ていた。
そして、昨夜の事を思い出す。
*****
───昨夜、倉庫にて…。
『敦くん、変身中の記憶は全くないの?』
乱菊の問いに何の事かと首をかしげる敦。しかし、太宰が彼を指差してこう言った。
「あ…でもまだ右手に残ってる。」
敦は自分の右腕を見る。太宰の言うとおり右手に違和感。それもそのはず、自分の右腕が、鋭い爪とふさふさの毛皮で覆われた虎の腕であった。
*****
思い出した。
自分の右手をもう一度見ると人間のそれで一安心する。
ピリリリリ
いきなり鳴った携帯電話の音に慌てる敦。
「は、はい!もしもし!」
[グッドモーニング。今日もいい天気だねぇ。新しい寮の方はどうだい?]
電話の相手は太宰であった。
「おかげさまで。野宿と比べたら雲の上の宮殿のようです…!」
[枕元の着替えは探偵社の皆からのプレゼントだ。]
太宰の言葉に心から感謝する敦のこれまでの貧しい生活が窺えるようだ。
一方、太宰の隣にいた乱菊が彼の携帯電話を取り上げる。
『おはよう、敦。昨日はよく眠れたようね。』
[乱菊さん!本当にありがとうございました!]
携帯電話を取り上げられて少し不貞腐れている太宰を横目に会話を続けた。
『ところで敦、いきなり申し訳ないけど、実は緊急事態なの。一刻を争うから直ぐに指定した場所に来てほしい。』
「大変な事態だ!君だけが頼りだよ…。」
乱菊の耳に当てている携帯電話に顔を近づけて太宰も付け足して敦が了承したことを確認してから指示を出す。
あぁ…数刻後、敦の危機迫った顔が浮かぶ。
「乱菊ちゃん、悪い顔になってるよ。」
『そう言う治くんだって。』
*****
敦が寮の部屋を出て、太宰に言われた通り後ろを見ると、視界に入ってきたのはドラム缶にお尻から突っ込んだ状態で、足と顔だけが出ている太宰と、その隣の木箱に座っている乱菊。
これは何かと問う敦に何だと思う?と質問で返す太宰はとても身動きのとれる状態ではない。
「まさか!敵の襲撃で、罠にかかったんですか?」
真剣な顔で言う敦だったが、それも無駄に終わる事になる。