『ダイヤのA』
□『第3話』
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──あの人に潰された投手も多いってよ。
──御幸にレギュラーとられておかしくなったって噂。
クリスの何を知ってそんな噂を流しているのか…。純玲は悔しかった。クリスの事を知らない人がありもしない噂を流していることに対して。
「純玲先輩…練習付き合ってもらってもいいですか?」
イライラしている純玲に誰も近寄らないようにしていたところに空気を読まない1年生投手が来た。
『いいわ。』
連れてこられたブルペン。防具をつけた御幸が驚いた顔でこちらを見ていた。
「練習相手連れてくるって言って、まさか純玲を連れてくるとは思わなかったぜ。」
「では、純玲先輩、これを着けて、あそこに立ってください。」
渡されたのはヘルメット、バッティンググローブ、そしてバット。
この子、私に打てって言ってるの…?
「おいおい、コントロールも儘ならない今の状況で純玲をバッターボックスに立たせられねぇよ。」
流石の御幸も止めるが、イライラしている純玲はこれをストレス発散として、受けてたった。
『本気で投げてね。但し、私に当てたら怒るわよ。』
降谷は頷いて御幸のミットを見据えた。
第1球目、まさに豪速球。
バンッ
綺麗にミットに収まる。純玲はバットを構えた姿勢から少しも動かなかった。やはり、女性である純玲には打てるはずがないと思う。
『降谷くん、女だからって嘗めてる?それとも調子悪いの?』
純玲の吸い込まれそうな瞳にゾクッと背筋に衝撃が走る。
第2球目、降谷の投げた球は気持ちのいい音を放って上空に高く上げられ、そして、フェンスに当たった。
「嘘だろ…。」
いくら、体の使い方が上手くて、フォームが完璧だからってホームラン打つか?普通。御幸は呆然としていた。勿論、降谷も同様だ。
『っ痛い!!』
「っ!降谷!今日はここまでにしとけ。ちゃんとクールダウンしろよ!」
純玲の声ではっと我に返った御幸は、純玲の腕を掴むとそのまま医務室に引っ張っていった。
「手、見せて。」
いつもの飄々としたかんじが一切ない御幸に純玲は内心ハラハラする。
「ん、少し手首痛めてるだけだから、湿布貼っとくよ。日に当てないように包帯巻いとくから、風呂入ったら取り替えるから俺のことろ来て。」
『…うん。ありがとう。』