『ダイヤのA』

□『第2話』
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青心寮の食堂には決まりがあった。

“ご飯は必ず3杯以上食べること!”

これくらい食べなければ後の練習に体がもたなくなるし、なにより体力や筋力をつけるためである。先輩達に少しでも追いつく為に1年生は必死にご飯を口に運ぶ。

午後の練習が始まり、栄純は御幸や倉持を見て、自分との体力差を思い知った。

そこへ、1年生の体力テストが行われることになって、私は記録を取りに行くが、その1年生の中には栄純の姿がない。

大方、監督にまだ謝ってなくて参加させてもらえないのだろう。

少し様子を見に行ってみると、栄純が監督に啖呵をきっていた。

監督は遠投で90m先のフェンスにボールを当てろと言ったようだが、中学を卒業してきたばかりの彼には厳しい事だ。

それなのに、何故か本人は自信満々。

結果は、フェンスまであと少しというところで大きく曲がった。

監督は、投手を諦めろとは言ったが、栄純が投げた1球で何かに気が付いただろう。

*****

あれから3日間、栄純は練習に参加させてもらえなく、ずっとグラウンドの周りを走っていた。そのため、栄純が鈍いこともあって、今だに姉弟は再会できていなかった。

去年の秋大で負けてしまった市大三高との試合前ミーティング、監督の合図で選手達の空気がガラリと変わる。

哲さんを中心に選手達が円陣を組み、左胸に手を当てた。

「俺達は誰だ。」

“王者青道!”

哲さんの声に1軍の皆が答える。

「誰より汗を流したのは」

“青道!”

「誰より涙を流したのは」

“青道!”

「戦う準備は出来ているか!」

“おぉぉぉぉ!!”

選手達は腕を上げ、その指は晴天の空を指す。

「我が校の誇りを胸に、狙うはただ1つ!全国制覇のみ!!いくぞぉぉお!!」

“おぉぉぉぉお!!!!!”

これには新入生も尊敬の眼差しを向ける。

私も実際、心打たれる物があった。

『いいね…』

思わず口に出ていた声を聞いていたのは、やはり彼女だった。

「純玲、こういうの好きでしょ?」

思ってたよりも私は興奮しているようだ。

口許の緩みが押さえられない。

胸の高鳴りが身体中に響き渡る。

『凄く好き。礼ちゃん、ありがとう。私、青道に来て良かったわ。』

試合を見るためバスに乗り込む新入生達。

しかし、バスに乗らない栄純。

やっぱり、君ならそう言うと思ってた。それに、実はもう1人バスに乗ってない新入生がいたのを知ってる。

降谷暁、北海道から来た投手希望の期待の1年生。

走り回る栄純と、寝ている降谷くん一瞥してから私はバスに乗り込んだ。
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