『ダイヤのA』
□『第3話』
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医務室では珍しく無言で気まずい空気が2人の間に漂っていた。
備え付けのソファーに並んで座っているため、距離が近い。自然と御幸の皺の寄った眉間に目が行ってしまう。
『一也くん、練習邪魔してゴメンね?…怒ってる?』
おずおずと顔を覗きこむようにして聞いてくる純玲にため息をつくと、彼女の肩がビクッと上がった。
「怒ってねぇよ。でも、降谷の球の威力は高けえから…まさか打つとは思ってなかったけど。もっと、自分を大事にしろってこと。まじで怪我するぞ。」
『…うん。』
もう少しで泣いてしまうのではないかと思うくらい落ち込んでいるように見える純玲。御幸は困ったような表情で自分の頭をガシガシとかいた。
「何かあったの?」
いつもの調子ではない純玲を今度は御幸が覗きこむ。
『…だって、クリス先輩が!』
自分には何もできない悔しさでとうとう涙が溢れ出した純玲は御幸の胸に飛び込んだ。腕を背中に回し、御幸の練習着をくしゃっと掴む。
いきなり抱きつかれた御幸の腕はどうしていいのかわからず、空をさ迷う。しかし、おそるおそる御幸も純玲の背中に腕を回し、あやすように一定のリズムで叩いた。
クリスのありもしない噂が出回っていて、その本人もまた、諦めのような事を口にするようになり、御幸にまで影響が出かねない今の状況に腹が立って、降谷の練習に付き合ったと言う純玲。
今まで、クリスの頑張りを見て、支えてきた彼女がここまで追い込まれている状況に、御幸も焦りを感じる。それに加え、純玲の弟はクリスと上手くいってない。
「…クリス先輩は、きっと大丈夫だ。あの人ってすごい人なんだぜ?純玲は今まで通り信じて支えてくれるだけで十分だから。」
*****
あの後、落ち着いた純玲を部屋まで送った御幸は自室で深刻な表情をしていた。
ここまで彼女が追い込まれるという事は、クリスの状態もいいものとは言えないという事だろう。
もしかしたら、1軍に上がれないかもしれない。
それにしても、なんだよ…あの細い肩。あんな華奢な体で降谷の球打つなんて信じらんねー。
まじで、何者なんだよ。沢村純玲っていう、女…いや、可愛い女の子は。
あー、やべ…。抱きしめたときの感触が離れねぇ。