LONG
□籠の鳥
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満天の星空
波の音
見慣れた夜空と
聞き慣れた音に
マルコは安堵した
が
次の瞬間ガバッと起き上がる
右の手首には海楼石の手錠
そうだ
近頃うちの縄張りを荒らす海賊共と
小競り合いの最中
誰が持っていやがったのか
こんな代物
雑魚相手と油断した俺の不覚だ
右手に嵌められたと思った瞬間には
もう海に落ちていた
マルコは改めて辺りを見渡す
誰かに助けられたらしい
自分が目を覚ましたのは
広い砂浜
横には焚き火がくべられ
木の枝に刺さった魚が焼かれている
その様子からしても
たった今焼かれたばかりのようだが
辺りを見回しても
人の気配はなかった
自分の右手に視線を落とし
その手首に嵌まる手錠を
なんとか外そうともがいてみるが
力も入らず
集中もできず
まるで夢の中のようだった
「クソッ!」
そう呟くと
マルコは諦めたように
そのまま大の字に寝転んだ
砂を踏みしめる微かな音に
マルコは目を覚ました
深く眠り込んだような気がしたが
横の焚き火に刺さった魚が
良い具合に焼けているところを見ると
せいぜい5.6分だろうか
近づいて来た足音は
焚き火を挟んだマルコの向かい側で止まった
マルコは体を起こした
「あんたが俺を助けてくれたのかい?」
ベージュのような
白のような
丈の長い
入院患者のような服を着て
立ったままのその顔はよく見えず
だが
体つきは女のようだ
「起きたの?」
そう言うと女はしゃがみこみ
腰に付けた袋から
水の入った瓶をマルコに投げて寄越した
焚き火の火に照らされた顔は
やつれてはいたが
意思の強そうな眉が印象的な
美しい女だった
「ありがとよい」
女はどかっと焚き火のそばに座ると
良い具合に焼けた魚を
はふはふと頬張る
「悪いけど、2日ぶりの食事なの。あんたの分はないから。」
女はチラッとマルコを見てそう言った
「ああ、俺はいいが…2日ぶりって…」
それでも女は今採ってきたであろう果物を
2.3個マルコに投げて寄越した
「俺はいいよい。あんたが食えよい」
マルコはその果物を女に手渡す
「あ、そ。」
女は乱暴にそれを受けとると
あっという間に完食した
「俺はマルコ。あんた、名前は?」
…
…
「一人かよい?」
…
…
女は会話をする気がないらしく
疲れた様子でその場に横になった
マルコの方も
揺れる焚き火を見つめながら
仲間にどう連絡を取ろうかと考えこむ
それにしても
これがとれなきゃどうにもならない
右手の手錠を
忌々しげに触りながら
マルコは溜め息をついた
「その印あんたも奴隷?それとも脱獄した囚人?」
眠ったと思っていた女の目は
揺れる焚き火越しに
マルコを見ていた
マルコの胸に大きく主張する
白ひげ海賊団の印を
「いや…どっちでもないねい…俺は白ひげ海賊団の海賊だ」
「白ひげ?」
「聞いたこと無いかよい?あんた、出身は?」
…
「うるさい…質問はあたしがする」
不機嫌そうな女の様子に
ぶっっ
マルコは吹き出した
「自分の事は話さないのに俺の事は知りたいのかよい?」
「笑うとこなの?」
女は苛立った様子で体を起こした
三十路を越えた年頃に思っていたが
実はかなり若いのかもしれない
わずかに唇を尖らせる女を見て
マルコは思った