LONG

□Kitty
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海で意識を失いながらも漂流していた
黒い猫を拾ったのは
海軍大将青雉。
その日も愛車で海上お散歩中だった。

「ん〜?あららら…こんなとこでどうしたのよ?」

青雉は海に浮かぶ板切れの上に
黒い塊を見つけて
そちらまで自転車を走らせたのだった
猫を片手でつまむよう持ち上げながらも
生きていることを確認すると
着ていたベストの胸ポケット辺りに
優しく仕舞い込み
散歩を中断すると
自宅へ急いだ。


街の獣医師に手当を受け
自宅に連れ帰ったのは
1週間ばかり後だった
連れて帰ってきて
猫をまじまじと観察すると
どこもかしこも古傷だらけだった
左の耳は一部が欠損していて
耳下から顎にかけても
大きな傷跡
右の脇腹から後ろ足の付け根辺りにも長い傷跡がある

「随分なおてんばちゃんじゃないの」
青雉は目を細めて
優しく猫の背を撫でた



それから2年

青雉は今もその黒猫と暮らしていた
飼い主とはよべない
長期間家を空けることも多く
その間猫は自由気ままに
いろいろな人間からエサをもらい
寝床も好きに選んだ

それでもなぜか
3日に一度は
自分のために作られた
裏口の猫ドアから
青雉の自宅に帰り
主人がいないかと確認しにきていた

「ただいま」
3週間ぶりの我が家の玄関で
青雉はそう声を出してみた。
「ただいま〜」
もう一度そう言いながらリビングへ

なんだ…いないのか
普段はなかなか自分から近寄って来ないくせに
前回は狂ったように出迎えて
歩くそばから体を擦り付けてきたのに

「あ〜 疲れた」
期待を裏切られた青雉は
半ば不貞腐れたようにソファーに体を投げ出した
そしていつもの様に
いとも簡単に眠りに落ちる

しばらくすると
やけに胸の辺りがもぞもぞする気がして
目を覚ます
自分の胸の上で
猫が爪を出して踏み踏みしている
「ただいま、おてんばちゃん」
青雉は大きな手で優しく
確かめるように
頭から尻尾までを一撫でした
「ミャオゥ」
猫は目を細めた

実は名前さえ付けていない
呼び方も
「おてんばちゃん」とか「姫」とか
「ねえ」とか「ちょっと」とか
名前がないと不便だとは思いつつも
結局命名することなしに
今までいるのだ

全くただの同居人と言えた

それでも青雉は
飼い主とペットの様には
なんとなく
なりたくなくて
それは猫の方も同じな様に見えた
少なくても
青雉はそう思っていたのだった
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