SHORT

□遠回りな二人
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マルコは優しい
すごく優しい

でもあたし以外の人に


例えば

あたしが薬剤庫の整理をしていると
マルコが点滴の入った重たいケースを
前も見えないくらいいくつも積み重ね
入ってくる
「あれ!?マルコどうしたの?そんな事あたしたちがやるのに…」
マルコはそれを床に積み直すと
「ナースたちにこんな重いもの運ばせられねぇだろい」
「あ、ありがとう」
「よい」

いつもあたしは運んでますけど…
そりゃあ、あたし以外のナースは
みんな細くて綺麗で力仕事なんかさせられないって思うだろうけど…


例えば

親父様のお薬の補充に
買い出しに出たナースたちが
マルコや他のクルー達と共に船に戻ってくると
彼らは両手いっぱいに荷物を持ち
ナース達は手ぶら
親父様のお薬以外にも
服やら化粧品やらの紙袋や箱も
あたしが半ば呆れて
「こんなのあの子達に持たせなさいよ」
とマルコに言うと
「いいんだよい。たまたまそこで会ったからついでに運んだだけだよい。」
と事も無げに言う



例えば

あたしが夕食後
食堂で他のナース達とおしゃべりしていると
相当疲れた様子のマルコが首に手を当て
肩を鳴らしながら入ってくる
「マルコ隊長、コーヒーでも淹れましょうか」
ナースのジュリアが立ち上がる
「いや、いいよい。気利かせてくれてありがとよい」
と笑うと自分で、用意された夕食を皿に取り食べ始める
夕食が済むと
「紅、コーヒー」
と言うと部屋に戻っていく



なんか…
扱い違わない?
ジュリアにはお礼と笑顔
あたしには視線もよこさずたった二言
コーヒーが何よ?
コーヒーがどうしたのよ?

あたしは溜め息を一つつくと
淹れたてのコーヒーをマルコの部屋まで運んだ


ある日

甲板で日向ぼっこしながら
本を読んでいると
サッチが側で釣りを始める
ポツリポツリと会話をしながら
あたしがウトウトしはじめると
サッチが突然言った
「紅とマルコってなんかあんの?」
あまりにも想定外の質問にあたしの眠気は一気に吹き飛んだ
「むしろ何にもないけど?」
「ふーん。マルコってナース達に優しいじゃん?でも紅には…なんつうか俺らみたいに接するだろ?」
「全くその通り。じゃあなんでそんな質問?」
あたしは首をかしげた
「だって紅だけ特別じゃねーか」
「いやいや、他のナース達が特別でしょ?」
「だから、他の女にはそうなのにお前には違うって事だろ。むしろ紅が特別」
「どんだけポジティブなのよ」
あたしは思わず吹き出した
「女と思ってないんでしょ。それか興味がない。とか」
「そうかなぁ」
自分で言ってあたしはちょっと凹んだ
分かってたけど
あたしだって女だし
男の人に優しくされたらテンション上がるし…

なにより
あたしはマルコが好きだから
こっそり密やかに育ててきたこの想いは
自分でさえも忘れそうになるくらい仕舞い込まれている


「寝る」
「おう」
そう言ってサッチに背を向けたけど
ざわざわと波立つ胸の内に
あたしはうたた寝さえできなかった
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