本棚  弐

□スイート・ラウ゛ァー
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ウ゛ウ゛ウ゛ッ

来た!

平日の夕方。
いつものように鏡を見ながら暇を持て余しているときだった。
ポケットにいれていたスマホが震えたことに気づき、急いでそれを取り出した。

画面を開けばメッセージが一件。
『仕事終わったよ。今から会える?』
その文に頬が緩む。
もちろんだ!と逸る気持ちを抑えながら返信すれば、すぐに返事が来た。
『いつもの場所にいるから、支度すんだらおいで
急がなくていいからね』
いつもの場所。
頭で反芻してすぐに立ち上がり着替え始める。

すると、部屋に居たおそ松とチョロ松と目があう。

「今から出掛けるの?」
「ってか、カラ松。
お前いつからスマホとか持ってたわけ?」

珍しく興味深そうに聞かれる。
けれど今の俺はそれどころじゃない。
一秒でも早く着替えて出掛けるために、服を着ながら答えた。

「スマホは借り物だ
少し出掛けてくる
帰宅は何時になるかわからないから、帰らなかったときは俺の分のおかずはみんなでわけてくれ」

言うと、おそ松の顔がパッと明るくなった。

「マジで!?やった♪ゆっくり楽しんでこいよ〜」
「わかった
まあ気をつけてね
変な人に付いていくなよ」

チョロ松は俺の言葉に怪訝そうにしながらも、それだけ言ってすぐに求人誌へと視線を戻した。
普段の俺なら少し寂しかったりするかもしれないが、今は気にならない。
なぜなら、一ヶ月ぶりに大好きな恋人に会えるのだから。
もう躍りだしそうなくらいに嬉しい。

「行ってくる!」

ジャケットに腕を通して、緩みきった顔を隠すことなく言って部屋を後にした。













「おまたせ、カラ松」
「……ッ」

待ち合わせの場所に着き一息ついていると、すぐに後ろから声をかけられた。
振り向けば、兄のおそ松とそっくりな顔。
名前も同姓同名だけど、仕事は極道のボスをしているらしく愚兄とは雲泥の差だ。
だからか、見るだけで緊張するくらいかっこいいオーラを纏っている。
オーラだけでもクラクラしちゃいそうなのに。
今日も高そうなスーツをビシッと着ていて、凄まじく格好良い。
これが12歳年上の大人の魅力なのだろう。
このスパダリ感漂う彼は、なんと!俺の恋人なのだ。
半年くらい前に変な人に絡まれていたところを助けてくれて。
以来、よく遊びにさそってくれるようになり、その一ヶ月後に告白された。
諦め半分で思いを寄せていた俺は、飛び上がるくらい喜んでOKした。
格好良くて、大人で優しくて…
こんな人が自分の恋人だなんて、いまだに信じられない。

「……?カラ松?どした?」

ぴしっと固まっている俺を見て、彼は俺の頬を撫でながら聞いてきた。
うおぉ!!顔近い!か、かっこいい…ッ

「あ!な、なんでもないぞ!
松野さんがあんまり格好良いから見とれてただけだ!」
「……ッフフ、ありがと」
「…………〜〜〜ッ」

俺の言葉にふわりと笑うと、今度は頭を撫でてきた。
もし他の人にされたら、きっと子ども扱いされたような気がして嫌だろうななんて思っていると手を引かれ歩き出した。

向かった先には黒塗りの大きな車。
当たり前のように扉を開けてくれ、恥ずかしいながらも素直に乗る。

「…ありがとう」

この車もだいぶ乗り慣れた。
後部座席が広く、運転席とはしきりがある。
そしていつも背中を向けた寡黙な運転手さんがいた。
運転手さんは彼の右腕らしく、いつも一緒だ。
一度顔を見たとき、どこかチョロ松に似てると感じたのを覚えている。

「どこか行きたいところある?」

俺の隣に座ると、ふわりと笑い尋ねてきた。

「焼き肉行く?
前に行きたいって言ってたお店行ってみる?
あーでもまだ早いかな
映画とか見に行く?
この前カラ松が見たいって言ってたやつ公開し始めたよ」

にこにこと楽しそうに提案してくる彼。
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