本棚  弐

□婿堕とし
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※暴言・微暴力描写・攻めの気持ち悪い描写・唾液口移し等あります。
なんでもOKな方のみお読みください。







松野カラ松、人生最大のピンチだ。

「まあまあ、そんなに緊張しなくていいから」
「ハ、ハイッ…」

目の前には小太り気味の男がビール瓶の注ぎ口をこちらに向けていた。
俺は恐縮しながら、その男性にグラスを向けた。
着なれないスーツの下で汗がたらりと流れる。

「……………」

はあ…なぜこうなった…。

内心ため息をつく。








すべての始まりは一年ほど前に遡る。
初夏の日、いつものようにカラ松ガールとの出逢いを求めて散歩をしていたとき。
しきりに地面を見つめる女性を見つけた。
どうしたのかと尋ねてみれば、コンタクトを探しているのだと。
困っている女性を放っておくわけにもいかず、俺もいっしょに探すことに。
結果、コンタクトは見つけられなかったが、お礼がしたいと言われ食事にいくことになった。
気さくな彼女はそれから何度か食事に誘ってくれ、すぐにお互いに惹かれ合い恋人同士となった。
そんなある日。
『カラ松くんと結婚したい』
とプロポーズされた。
今さらに仕事をしていないことに気後れしていると。
主夫になってくれればいい、それに私の家はマンションを持っているし母と私は会社を経営しているから働かなくてもいいと押しきられた。
俺自身、彼女のことは愛しているしずっといっしょに居たいと思っているから。
結果オーケーを出した。
彼女は長女で一人っ子だ。
だから俺の両親とも相談して、婿養子になることに決まった。

トントン拍子に話は進み。
そして、彼女の実家へ挨拶に行く日。

緊張でガチガチになった俺を気遣いながら、彼女は俺を紹介してくれた。
彼女のお母さんが作ってくれた多種多様な料理がテーブルを埋め尽くす中。
お酒の力で少し緊張が解け始めたころ、急に家の電話が鳴った。
なにやら真剣に話をした後。
祖母の具合が悪くなった、少し出かけるとだけ言うと彼女と彼女のお母さんが家を出ていってしまった。

彼女のお父さんと二人だけにされてしまい、緊張が最高潮に。
温和そうな彼女のお父さんは何かと色々と話題を振ってくれるも、焦って空回りする頭では大した広がりもなく。
ぽつりぽつりと沈黙が増えていった。



そして、今に至る。

横目でチラリと時計を見れば、彼女たちが出ていってまだ15分しかたっていないことに軽く絶望する。
こんなことでやっていけるのだろうか…
そんなよくない思考が流れてきた。

慌ててそれを追いやるためにグラスに入ったビールを仰ぎ、飲もうとした瞬間。

「あ、……」

バシャッ……

先程なみなみに注がれたことをすっかり忘れていた俺はグラスを傾け過ぎ、勢いよくビールを溢してしまった。

「大丈夫かね!?」
「あ、ハイ…大丈夫です」

反射的にそう言うも、下を見ればスーツのズボンがびっしょり濡れていた。
これはまずい…
ぺったりと濡れた生地が肌にまとわりつく嫌な感じが、下着にまで至っている。
何度目かのため息を小さくつきながら、どうしようと思っていると。
間近に立つ彼女の父の視線に気づいた。

「…………」
「……?」

じいとこちらを凝視する彼女の父。
不思議に思い、見返しているとハッとしたように話し始めた。

「……あ、そのままじゃあれだろうから、こちらにおいで。
服を貸してあげよう」
「え、いや…それは…」
「なに気にしなくていい
君は私の息子になるのだから…
さあ、こちらだ」

なんだろう。
じわりと胸に広がる違和感を感じつつも、その言葉に従うことにした。


義父に連れられ、彼の寝室へ。
大きめのベッドに机、本棚、衣装箪笥。
生活臭漂う部屋の隅に立って、義父が服を探すのを見ていると。

「下を脱いでおきなさい
すぐに見つけるから」
「…え…あ……はい」
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