本棚  弐

□優しくしようと思ったのに。
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最近俺の二つ上の兄がおかしい。

数ヶ月前、六人兄弟の上三人が恋人同士になった。
男同士じゃん、とか。
そもそも三人ってどうゆうこと?なんて疑問は俺にはなかった。
それは俺の下にいる二人の弟もそうだった。
特に説明されたわけじゃないけれど、なんとなく肌で感じ取ったいた俺たちは。
兄三人の恋路を横目で観察していた。

けれど一ヶ月ほど前からカラ松の様子がおかしくなった。
(まあアイツは元々変だけど)
あからさまに二人を避け出したのだ。
代わりになぜか俺たちにべったり。
あれ?喧嘩した?と思うも、どうやら違う雰囲気。
カラ松以外の二人は何やらこそこそとカラ松を追いかけ回しているし。
どうしたものか…。

なんて思いながら可愛い友人達の餌を準備していると、この場に不釣り合いな足音に気付いた。
はあ……今日は俺かよ。

「なんか用…クソ松………」
「……!!」


振り返りもせずに言えば、後ろにいた影が驚くのを感じた。
気付かれてないと思ったのかよ。
カラ松boyなめんなよ。
お前なら数百メートル背後にいても匂いでわかるわ!!
……と今この話はいいわ。

「フッ……たまにはブラザーのフレンドに会いにいくのも良いかと思ってな」

髪をクルクルと指に絡ませながらわけのわからないことをほざく。
そんな説明はどうでもいいので、まだ未開封の猫缶を手渡す。
すれば、しばらく思案した後にニパッとバカ面で笑い、缶詰片手に俺の隣に座ってきた。
安心したように餌をやり始めたカラ松を見、今ならいい気がして。
最近の疑問をぶつけることにした。


「あのさ…なんで最近おそ松兄さんとチョロ松兄さんを避けてるわけ?」
「ーーッ!!!!!!!」

ガンッ。
あ、缶詰落とした。
かと思えば明らかにひきつった顔で。

「な…なな……なん……なんの…こ、ことだ?」

どもり過ぎでしょ。
ってかそれだけ動揺しといてまだ隠そうとする辺りこいつはバカだ。

「あんたら三人が付き合ってんのなんて、兄弟みんな知ってるから
今さら隠す必要ない
んで、なんで避けてんの」
「…いや………避けてる………わけじゃ……」

だんだん声が小さくなるのを聞きながら、続ける。

「避けてるでしょ、明らかに
ここ一ヶ月俺や十四松やトド松にべったりだよね」
「…………うっ…」
「理由言えないなら、おそ松兄さんとチョロ松兄さん呼ぶけど…」
「………………………わかった」

これが決め手だった。
観念したように話し始めたカラ松。
その内容は童貞の俺にはなかなかハードルの高いもの。
回りくどい例えと途中横道にそれるカラ松の話を要約すると……

二人とセックスするのが怖いらしい。
それもたまたま二人の性癖を垣間見てしまったらしく、さらに怖くなったとのことだ。
うん…まあ…
あの二人の性癖なら仕方ない。
カリスマドSに真性ドSだ。
それに引き替え、こっちはカッコつけだが性癖皆無のセクロスに夢とロマンを詰め込む阿呆。

兄の威厳はどこに捨ててきたのか。
情けなくあわあわと半泣きになりながら、恐怖を語る兄の頭を撫でた。

「………………へ?」

俺の挙動に驚き、キョトンとこちらを見る。
うん、コイツの素の顔は嫌いじゃない。

「あんたら一応恋人なんでしょ
だったら、ちゃんと自分の気持ち伝えたら…
逃げてても仕方ないでしょ」
「ッ!!……い゛ぢま゛づぅぅぅう…」
「うっわ…抱きつくなッ」

勢いよく抱き着かれ、尻餅をつく。
えぐえぐと泣きながら頭を擦り付ける兄にため息をつき、背中をぽんぽんと優しく叩いた。

たまにはいっか…



なんて思っていると、突然道路側から三つの影が現れた。

「カラ松にーさん見〜〜っけ♪」

「でかした十四松
ってかカラ松〜?
お前なにやってんの?」

「僕たちのこと避けまくっといて自分は一松と浮気?
いいご身分だな」

ああ…十四松。
とうとう買収されてしまったか…。



そのままカラ松はドS二人に連れ去れた。
ご愁傷さま。
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