それでも“私“は生きるだろう

□一話
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 俺が13歳、中2のときのクリスマス。
 悪夢は、突然に起こった。

 楽しかったクリスマスは、俺を、俺と弟を、悪夢へと突き落とした。
 俺と弟以外の皆が、急に血を吐いて倒れたのだ。
 弟はいきなりのことに驚いて、隣にいた母親を呼び、体を揺らす。
 俺はまだ、動くことができない。

 その時、外の放送用メガホンから、幼い少女の声が聞こえた。
 訳がわからなかった。

 人類は滅びる?
 13歳以下には感染しないウィルス?

 疑問ばかりが浮かんだが、俺はリビングから飛び出し、武器を探した。
 このままではダメだ。
 俺達はアイツラに捕まる。
 前、小説か何かで読んだ。
 その時は、非現実的な話だと思いながらも、おもしろかったから、それを読んでいた。
 まさかそれが現実になるなど、誰も知りはしなかっただろう。
 もちろん俺だって、想像すらしなかった。
『っ・・・・!あった!』
 やっとの思いで見つけたのはカッター。まだ、もう1つほどあったはずだ。
 俺はまた、家の中で走り回った。

 家にあったカッターは2つ。
 俺は台所から包丁を出し、そこに置いた。

『晃(あきら)!ちょっとこっち来て・・・・!』

 弟を呼び、俺は小さな地下倉庫を開けた。

「百合ちゃん?何を・・・・?」

 弟、晃はこっちに来て、俺に疑問を投げかけた。

『とりあえず、ここ入って』

 俺は晃にそう言った。

「でも、おかーさんが・・・・!『いーから!早く入って!早くしないと捕まっちゃう!』

 俺はそう叫んだ。
 晃はビクッと肩を揺らしてから、すぐに地下倉庫に入った。

 俺はそれを見て、包丁を晃に渡した。

「え・・・・これっ・・・!」

 晃は驚いて、包丁と俺を交互に見つめる。
 俺は晃に微笑み、これからしてほしいことを言った。

『いい?ここにもうすぐ、人間じゃない人達が来る。俺がその人達の気を引いて、晃を見逃して貰えるようにするから、そこから出てこないでね。』

 それと、物音が止んで、300数えたら出てきて良いよ。バレた時は、それで抵抗して全速力で逃げなさい。
 そう付け加えて、近くにあった懐中電灯を中に入れ、上を閉めた。


 少しして、ギィィと、門を開ける音がした。
 俺は深呼吸をして、ドキドキと煩い心臓を宥めた。

 ドンドンッと、玄関の扉を叩く音が聞こえた。

『っ、はーい!』

 今出ます!と、声のキーを少し高くして叫んだ。

 いつものブーツを履いて、玄関の扉を開けた。
『はい・・・・。どなたでしょうか・・・・?』
 扉を開けると、目の前には不思議な格好をした2人の男性がいた。
 片方は紫の髪を、ハーフアップというものにしていた。
 もう片方も、黒髪に、紫の人と同じ、ハーフアップというものにしていて、目の下には隈があった。
 あまり共通点のないような2人だが、2人とも、真っ赤な血のような目と・・・・


 口の端から見える、牙・・・・・・

 って、牙?!

『?!き、吸血鬼・・・・?!』

 俺は驚いて、そう叫んだ。

「おっ、せーかーい。人間にもわかる奴いるじゃん」

 どこか嬉しそうに、腰に両手を当てて、紫の人はそう言った。

『えっと、あの・・・・「この家には、お前しか居ないのか?」

 俺の言葉を遮って、黒い人が俺に聞いた。

『あっ、はい。ここにいるのは、“私“だけです。』

 私以外皆、居なくなっちゃいました。
 と、俺は悲しそうな笑顔を浮かべた。

 もちろん、演技だが。俺は演劇部に所属している。いや、していた、の方が正しいのかもしれないが、そこは置いておこう。
 1年の時に大会に出たほどの実力だ。そう簡単にはバレないだろう。

「ふーん、それじゃ、行くぞ」

 紫の人が、俺の手首を掴む。

『へ?あの、どこへ?』

 俺は少し脚に力を入れて抵抗し、聞く。
「ん?放送聞いてなかったか?」
 お前ら人間のホゴで、これからキョートの地下都市に行くんだよ。
 少しあきれたように、紫の人はそう言った。

『き、京都?!む、無理です!私、行けません!』

 俺がそう言うと、紫の人はうざったい、と言うように、溜息をついた。その目は、とても冷たかった。

「あーもう、めんどくせー




血ィ吸って気絶させればいいか」
 そして、彼の手が伸びて来る。
 俺は胸元に当てていた手で胸ポケットに入れていたカッターを取りだし、刃を出した。
 時間がゆっくりに思える。だが、本当は短い
のだろう。

 俺の方に伸びてきた腕をカッターで斬った。
「?!」
 紫の人は俺を睨んできた。殺気が肌に刺さって少し痛い。

『すみません。そうなるのであれば』

 強く前を見る。

『私は、全力で抵抗させて頂きます。』

 もう、覚悟を決めた。
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