恋に落ちた海賊王

□始まりの朝
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青い空、白い雲、周りにはこちらをチラチラと見てくる観衆……。



そして目の前には、いかにもなゴロツキ達。


周りからは、もさっとした少年を柄の悪い連中が脅している様に見えるだろう。
まぁ、実際そうなのだが。

レイは長すぎて顔が隠れてしまっている前髪の隙間から、相手を伺った。


「おい兄ちゃん、酒場なんだから酒くらい置いてんだろ!?」


確か3分前が初対面なのだが、もうすでに怒鳴り声だ。

レイはため息をついて、先程と同じ台詞を言った。

「ですから、まだ準備中なんです。マスターがじき戻ってくるんで、それまで待っ……」

「俺達、酒にも女にも飢えてんだよ」


なぁ、と後ろの仲間と笑い合う。


「生憎ですが、この店に女はいません。お酒もマスターが戻ってくるまで少し待っていて下さい」

「俺達に出せる酒は無いってのか!?」


(そんな事言ってないじゃん!)

そろそろ泣きそうになってきた……と若干遠い目をしかけたその視界に、ギラリと光るものが入った。

「……!」

「大人しく酒出せば、痛い思いしないぜ?兄ちゃん」


下卑た笑いを浮かべて、ナイフを突き付けてくる。


「……ッ」

頬をゆったりとナイフの背で撫でられ、背中にゾワリと嫌な感触が流れた。


「へっ、最初から大人しくしてろってんだ。……おい、」


思わず硬直したレイを眺めて、ゴロツキが仲間に目で合図したとき。



パンッ!


「うおっ……!」

乾いた音と共に、目の前にいたナイフ男が蹲った。


からんとナイフの落ちる音。
視界からナイフが消えた事で、身体に無意識に入っていた力が抜ける。


「このへんは、低俗な連中が彷徨いてるな」

突然の事に呆然となったゴロツキ達は、ハッとしたように声の方を振り返った。


そこには銃を片手に持った、不機嫌そうな男。上流階級にいそうな雰囲気だが、右目の真っ黒い眼帯が異色を放っている。
整った顔立ちなのに、眉間の皺が近寄りがたさを醸し出していた。


(うわ、イケメン……てか銃持ってるし、絶対関わっちゃいけない類だ)


ゴロツキ全員が乱入者に注目している間に、レイはそろりそろりと脇に逃げる。


「お前ら、こんなガキにたかってんじゃねェよ」

フンッと鼻で笑って、男は言った。


「あぁ!?てめぇ、ぶっ殺すぞ!」


いきり立ったゴロツキ達は、一斉に男に襲いかかる。

と、その瞬間。



「おい、シン!置いてくんじゃねーよ!」


男の隣から怒鳴り声がした。


怒声の主は、レイとあまり変わらなさそうな年頃に見えた。
金の髪が眩しい。まるで小説の中の王子の様な、整った容姿だ。
腰にふた振りの剣をさしているが、それさえ装飾に見える。


(またイケメン……てか王子。この人も仲間?)

「ぁんだ、テメェ!?」

「眼帯の仲間か!?」


ゴロツキ達がいきり立つ。


「あぁ?何だ、ケンカなら買うぜ?」


どこか楽しそうにニヤリと笑い、腰にさした剣を両手でスラリと抜いた。


「やっちまえ!!」


怒声を合図に、乱闘が始まる。


「ちょっ……!店の前でやめてよねッ」

せめて剣があれば、応戦出来るのに。


「おい、何をボサっとしてる!逃げろ!」


銃を正確に的に当てながら、隻眼が怒鳴った。

「言われなくても逃げるよ!」


レイは男2人に任せ、町の中へ駆け出した。






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