SAKURA TRIP
□1話
2ページ/5ページ
明香side▷▷
『な、なに!?』
突如聞こえた叫び声に、夜中だと言うのについ大きな声が出てしまった。
横に立つ花音も肩をビクつかせその方向を見ている。
タイムスリップとかいう、私たちの妄想の産物のような、ほぼ確定した現実に、尋常じゃない叫び声。
これで不安にならない人なんかいない。
とりあえず今やるべきことは1つ。
とにかく逃げる!
あの声からして良くないことが起きている。
呆然としている花音の腕を取ると、2人で自転車に跨り全力でペダルを漕ぐ足に力を入れた。
『な、なんのよこれ!』
『わからない、でもなんかヤバいのはわかる!とりあえず逃げなくちゃ……!』
立ち漕ぎで全力疾走。
遅刻のペナルティのリーチがかかった時みたい一心不乱にひたすら漕ぐ。
『明香!待って!!』
そんな中、私の後ろを行く花音が声を挙げる。
『ちょっと、止まってる場合じゃ……!』
『違うの!今なんか助けてって、女の人の声が聞こえた!……助けに行かなきゃ!』
『でも、私らも人のこと……って聞いてない………あー!もう、待っててばっ!』
花音は馬鹿だ。
それも、大がつくほどの。
こうして自分に危険が迫っているのにも関わらず、人の制止も聞かないで引き返そうとしている。
だけど、私もどうやら大馬鹿らしい。
こうやって引き返している花音の後を追っかけているのだから。
『いた!明香、あそこ!』
キキッとブレーキ音が響く。
立ち止まった花音は少し先の、人影2つを指差した。
差された方向の手前の物陰に尻餅をつく比較的小さな影も見える。
どこからどう見ても、あの影2つに襲われているのは明確で…
怖いはずなのに、頭の中ではどうにかしきゃ、と助け出す方法を必死に考えている。
はやく助けなきゃ手遅れになる。
でもどうやって?
私達に何ができるっていうの?
一瞬頭の中をかすめたのは110番。
だけど今は圏外だし、タイムスリップ疑惑がかかっているから、110番はまず意味がない上にできない。
何も策が出ないまま、気持ちだけが焦る。
そんな中
妙に落ち着いた声色で、
『…明香、今って緊急事態だよね。』
考える私に隣に並ぶ花音は、ポツリと呟く。
何か案があるのだろうか。
うん、と私が首を縦に振り頷くと、花音はペダルにかけていた足に力を入れた。
まさか………
嫌な予感がする。
もしかして…
もしかしてだけどコイツ…
『私ちょっとアイツら轢いてくるわ。』
やっぱり。
大雑把でイノシシみたいな性格だからもしやと思ったど、本当にビンゴだった!
今更驚かないよ、うん!
慣れとは恐ろしいものだ。
こんな危ない作戦を察してしまうなんて。
本当に慣れとは恐ろしいものだ。
こんな作戦とも言えない作戦に乗ってしまうなんて…
賭けのようで不安しかないけど、他にいい案も時間もない私は、黙ってペダルを漕ぐ足に力を入れたのだった。
.