SAKURA TRIP

□1話
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花音side▷▷






自転車を押し、歩くこと数分。

ようやく自転車が乗れるような道になってきた。

もちろん私たちはそれに跨り暗く、静まりかえった街と思わしき路地を駆け巡る。








『あーやっと座れたや…』

『ほんと、疲れた、眠い、帰りたい。』






2人で合流してからかなりの時間が立つ。スマホを見れば画面には”23:59”の文字が。




門限は8時。
これはもう完璧に怒られる。

迷子で仕方がないとは言え、お母さんはそんなことでは見逃してくれない。



ハァ、とため息をつくと明香も悟ったのか、







『これ無事に家に着いたとしても私ら殺されるんじゃね?』





と呟いた。


なんか今更になってこの後に来るであろうお母さん(とのバトル)が怖くなってきた。





ぶるっと身震いすると、とりあえず急ごうと明香に言い、まじめにペダルを漕ぐことにした。
















『なんかさっきから同じところ来てる気がする。』



突然、横に並ぶ明香がそう言った。



言われてみればそうかもしれない。
まぁ迷子なんだからそんなこともある。

でも何故だろう。
なんだか違和感を感じる。


最初は暗くて気づかなかったが、必ず何処かに一個はあるはずのコンビニも自販機も、そして街を照らす街頭が1つもない。


あたりを照らす灯りといえばそう、私たちが持つスマホの光と自転車のライトだけだ。










『いくらなんでもおかしい気がする………』





ポツリと私が呟いた。

明香も自転車にまたがったまま、カバンからスマホを取り出すと辺りを照らす。












『ねぇ花音、学校の周辺ってこんなボロかったっけ?こんな映画村感漂ってたっけ………?』





呆然とした明香が照らしたものはどれも木製の家で全てが平屋で、網戸も鉄製の雨戸も見受けられない。



なんだかドラマで観たセットのようだ。










(も、もしかしてタイムスリップ…とか?………ま、まさかね、いくら妄想癖があるからってそんなことは……)







あり得ない想像が一瞬脳裏に浮かんでしまった。

先日のテスト勉強で脳細胞がやられたのかもしれない。






(そうそう、あり得ない、あり得ない。と、とりあえず確かめるだけだし?誰もタイムスリップしたなんて思ってないし?)







なんて浮かんだ想像を否定しながらも、好奇心が勝ってしまった私は、ハラハラしながらゆっくりと建物に触る。









『……ほんものだ。これ、セットなんかじゃない…』






触れたまま明香の方を見れば、向こうも目を見開き辺りをクルクルと回りながら照らす。











ドクン、ドクンと脈打つ鼓動。


明香の強張った表情から、あの子もきっと同じ想像をしているのだろう。







そして引きつった顔のまま、お互いの顔を見た。









その瞬間














「ぎゃぁぁぁあぁぁぁぁあ」














そう遠くないどこかから断末魔が聞こえた。
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