藍夜の涙 〜月朧〜
□35話 約束
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翌日。
ひよりからメールが来た。
思えば昨日は、依頼の途中だったはず…
私が完全黙秘してしまったが為に、夜トに連れ出されてしまったが…その後どうなったのだろうか?
脳裏に浮かぶのは悲惨な室内。
ひよりと雪音の事だ…きっと片付けたに違いない。
違いないのだが、ただ…
ふたりに押し付けてしまったみたいで、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
恐る恐る、ひよりに聞いてみると…
案の定。
やっぱりと言うか、何と言うか…
ごめんなさい。
でも、私は気にしなくていいと言うひより。
全面的に悪いのは夜トだから、と。
本当に出来た妹である。
そして、問題は別にあるらしく…
それは、
夜トに着拒されているという事。
その理由には、何となく心当たりがあった。
昨日の記憶を手繰り寄せる。
ビルの屋上…
夜トの腕の中で…
*
「野良は…ひよりや雪音と出会う、もっと前から一緒にいた神器だ。」
突然、夜トの口から語られたのは野良の事。
肩越しでもわかる、不機嫌そうな声。
「だから…最近ずっと名前達とばっかいるのが勘にさわったんだろ…」
『…元カノ?』
「違う‼」
半分冗談のつもりで聞いたら、即行で否定の言葉が返ってきた。
心底、嫌そうな顔をする夜ト。
「だから…」
………
………………
続きを待てども、夜トの口は開かない。
『………だから?』
仕方なく、続きを促す。
それでも夜トの表情は変わらない。
本当は言いたくないけど、言わなきゃいけない。
言うのを躊躇っているような、そんな感じ。
『…もう、俺とは関わるな?』
夜トの表情が驚愕に変わる。
『…正解?』
自分でも意地悪な聞き方だと思う。
否定する事なく、私から視線を外すあたり…正解だったのだろう。
『夜ト…私のお願い、覚えてる?』
更に苦い表情をする夜ト。
『夜トが心配する事は何もないよ。』
あなたは神様なんだから。
私の願い事を叶えてくれるだけでいい。
私達の間に、冷たい風が通り抜ける。
「名前…これだけは約束してくれ。」
先程とは打って変わり、真剣な表情になる夜ト。
「もう夜は出歩くな…妖を見たら逃げろ…それから……何かあったら、俺を呼べ。」
目の前にあるのは、揺らぐ事のない瞳。
どうやら拒否する事は許されないようだ。
途端に切ない気持ちになる。
もう、夜トの依頼に着いて行く事も出来なくなるのか…
困ったように見つめても、夜トの表情は変わらない。
本当に心配性なんだから…
『じゃあ、私からも約束。…ひよりの事も守ってあげて。』
「………………………は?」
数秒遅れて聞こえてきた返事は、たった一文字だけ。
聞こえなかったのだろうか?
『だから、ひよりの事も頼んだよ?』
「何でそこでひよりが出てくるんだよ…」
もう一度言えば、何故か少し不機嫌な夜トの声が返ってくる。
『襲われたのは私だけじゃない…。半妖の姿で行動する事も多いひよりだからこそ、危険だと…私は思う。』
間違った事は言っていない。
野良にとっては結局、私達のどちらも邪魔になるはずだ。
「………わかった…」
渋々、了承してくれる夜ト。
ひよりは夜トにとって大事な信者のひとり。
それは、夜トもわかっているはず。
しかし、彼の表情は晴れない。
「俺が心配なのは…」
最後にぼそりと言った小さな声は、
冷たい夜風に乗って、私まで届く。
*
不器用な彼らしい。
本当は心配で傍にいたいのに、
自分のせいで厄介事に遭ったり危険が及んだりすると思ってる。
彼なりの距離の取り方なんだろうけど、如何せんその取り方が下手くそなのである。
その証拠に、
着拒してる割に、ひよりのTwitterにはまめに返信してるみたいだし…
『グダグダなんだから…』
ひとつ溜め息をする。
『かまってちゃんをよろしくね、と。』
メールを送信。
携帯を閉じ、帰り道を歩き出す。
見慣れた現実に意識を戻せば、彼の気配はない。
吸い込む空気に、彼の匂いも感じられなかった。
だとすれば…きっと、ひよりの御加護に行っている時間なのだろう…