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□あいつがいなくなった日
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リリさんやオデット、アイリスをはじめ、島の人たちのおかげでソニアは無事に元の身体に戻れた。
俺も今までどおり、俺だけの身体に戻って安心した。

島の人たちに祝福され、シスターズで改めてソニアの歓迎会を開こうとジョーが提案したが、俺もソニアも分離の時に相当身体に負荷がかかったのかとても歓迎会に参加できるほどの体力はなかった。

「そういえば俺たち、これからどうするんだ...?」
「うん、今までどおり一緒ってわけにも...」
「ならウチに来ればいいじゃない!」
「お、オデットちゃん...?」

鍛冶をしないという理由でソニアが宿屋に住むことが決まった。俺だって料理しないけど...。

物理的にはなんら変わりないけど、ベットが広く感じる。そりゃそうだ、いくらあいつとはいえ年頃の女と2人で寝てたんだ。俺も気を遣わないわけではなかった。

今まで煩わしいとしか思わなかった、嫌でも毎晩頭に響いたソニアの寝息がない夜がこんなに不安だとは思わなかった。
真夜中を少し過ぎたとき、俺はいてもたってもいられず、ユミルのところへ向かった。

そっとドアを開けると、家の前にあるセレッソの木が、夜でも確認できるほど赤く色づいていた。今まで毎日が必死で、草木に関心を持つ余裕もなかった。

抜き足差し足で階段を降りかけた瞬間、自然のものではない、女の声が聞こえた。しかもよりによってユミルのほうから...。
仲間のリトルメイジが間違って小屋から出てきたのかもしれない。

「命さんにバレたら殺される...俺が」

ブラシ片手にそっと階段を降りて覗くと、声はリトルメイジのものではなかった。
紛れもなくソニアだった。しかも泣いていた。

「お前...」
「うっあっ、アゼルちゃん...?!」
「デカい声出すな、みんな起きるだろうが」
「あっ、ごめん...」

小さく丸まってユミルと対峙するソニアの横に座り、背中をさすった。

「ごめんねアゼルちゃん、もう元の姿に戻ったのに迷惑かけて...」
「お前の世話は今に始まった話じゃねーよ。で、どうした。オデットに早速いじめられたのか?」
「ふふっ、そんなんじゃないよ。ただ...」

「......寂しいなって思って」

そう言うとまたソニアの目から涙がぽろぽろとこぼれた。

俺もだ、なんて言えるわけがない。こいつの前で弱っちいところなんか見せるもんか。

「アゼルちゃんは...?どうしてこんな夜中に外に」
「んー...。どっかの誰かの泣き声がうるさいってユミルがテレパシー送ってきた」
「ホントに!?ユミルとテレパシー使えるの?!」
「まあな」

巨大なプラントゴーレムは変わらず俺たちの前にただ海に佇んでいた。
気がつくとソニアは肩にもたれて寝息を立てていた。

たとえソニアが過去の時代に戻ると言っても俺はここに残るだろう。ユミルを含め、ここで築いてきたものがあまりにも大きすぎる。
それに仮面の男が最期に残した言葉も気になる。またフィーニス島が危険に晒されるかもしれない。

ソニアが過去に戻ったら二度と会うことはないだろう。いくら俺だって200年は生きられない。

それを決めるのはそう遠くない未来。

別にこいつに下心があるわけじゃない。

だから夜が更けるまではこいつの一番近くにいさせてくれ。

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