紅舞ウ地
□二つのシルエット
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いつものように船体に小船をつけ船に上がると、まだ夕方にも関わらず既に甲板では各々に宴が開かれていた。まだ料理も準備も整っていないのにも関わらず、片隅ではジョッキを片手に既に酒を流し込んでいるクルーの輪が出来ている。
時間なんものは関係ない。ゆっくり構えていると主役でさえも待ってはくれない。これが白ひげ海賊団のいつもの見慣れた光景だ。
そしてそんな流れを作り出しているひとり、甲板に姿を見せ一際大きい盃で酒を平らげる白ひげの元へ近づいた。
「ハロー。」
「やっと来たかァ。」
足元へ転がった既に空っぽの盃を見て、アリアは呆れた。詳しくは聞いていないが、最近体調がどうとかで船医に注意を促されていたばかりだ。説教のひとつ垂れようとしたところで、自分よりも先に白ひげに付き添っていたナースが口を割った。
「船長、飲みすぎですよ。」
「グラララ。好きなモンを飲んで何が悪ィ。」
豪快に笑って誤魔化す白ひげ。一際機嫌が良いように見えた。ナースは諦めの溜め息を落とした後自分の方へ歩いてきた。
「アリア、怪我はどう?」
そう言って、ナースは自分の腕を取った。
「大丈夫。もう痛みもないよ。」
「このくらいなら傷跡も残らないわね。」
じっくりと傷口を観察した後、ナースの視線は自分の上半身へと移った。普段、仲間たちの前でもなかなか見せない自分のこの格好が珍しかったのだろう。
「なんだか今夜は暑くて。」
そう言ってくるりと回ってみせたアリアの服装は、胸元が隠れるチューブトップの水着のみ。その上にはいつものようにシャツも何も羽織っていない。その晒された背中一面には白ひげ海賊団の刺青が浮かんでいた。
笑うアリアに、そうと、ナースはどこかほっとしたように柔らかく笑い返した。白ひげも何も言わずぐびっと酒を平らげた。
この船に誰かを軽蔑する者はいない。あるとすれば、それはたった一つ。それは自分の中の葛藤だけ。それを脱ぎ捨てた時、少しだけ気持ちは軽くなった。
「そういえば、エースは?」
「そういやァ昼間、港へ船を着けてから見かけねェなァ。テメェが主役も忘れてエースの奴ァどこほっつき歩いてやがる。」
言いつつほんのり漂う白ひげの優しい空気。モビーディックは歓迎のムードに包まれていた。
そうこうしているうちに、甲板に香ばしい食事の香りが漂ってきた。両手に収まりきらないほどの大皿を抱え、コックたちが甲板に料理を並べ始める。
テーブルなんて、上品な食卓は囲まない。白ひげを囲むように足元いっぱいに料理は並べられた。
「んー、いい匂い。」
ほぼ丸一日眠っていて何も口にしていない身体には、香りだけでもいい毒だ。待ってましたと言わんばかりに、タラップで繋いだ姉妹船からも続々とクルーたちが集まってきた。途端にモビーディックの甲板は人で埋めつくされた。