紅舞ウ地

□初めての外界
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まるでおとぎの国のような、お洒落で繊細な建物造りの街並み。道草やゴミのひとつもなく、敷き詰められた茶と赤の彩りの良いタイルがアートのようにどこまでも続いていた。高層な建物や派手さはないが、経済も治安も良い国なのだろうと想像出来る。

髑髏の刺青に腰には銃や剣。この街並みに自分たちはさすがに似つかわしくない見栄えだろう、そう思っていたのだが、少し街中へ入り込めば道の両端には食材や雑貨の露店が立ち並び、多くの人が行き交う通りになっていた。その賑わいの中に自分たちも違和感なく溶け込めた。

キョロキョロと周りを探りながら、一味の一番後ろを着いて歩くアリアに、隣を歩くエースからの声がかかった。

「どうだ?久々に街を出歩く感想は。」

気にしてくれていたのだと少し驚いた。

「うん、なんか……。想像してたのと全然違ってた。」

街並みもだが、自分が言いたかったのは、感じたものだ。
上手く言葉に表すことができなかったけれど、それでも自分の安堵の色が伝わったのか、少し間を置いてエースは自分の事のように嬉しそうに笑った。

「そっか。よかったじゃねェか。これでもう気兼ねすることなくどこでも歩けるな。」

「うん、そうだね。ありがとう。」

「ははっ、おれはなんもしてねェ。」

そんなことは無い。こうやっていれるのもエースが背中を押してくれたおかげだ。本当に心の底から感謝している。

アリアの気持ちはすっきりとしていた。

仲間たちが一緒ということもあり、それほど苦を感じることはなかったのだが、驚いたのが街に出て警戒があっさりと解けたこと。

一般人や子供。商人に旅芸人、もちろん他所の海賊も。風貌も違う様々な人たちが歩いている。

だけど、自分が思うほど、周囲は自分のことなど見てはいなかった。それぞれの時間を、笑い合ったり時には怒ったり……それぞれ慕う者たちと共有している。ただそれだけだ。

今まで見ようとしていなかったモノが、少し目を向ければ見えてくる。
自分への罵声だと感じていた声が、ただの楽しそうな笑い声に。好奇の目だと感じていたものは、自分へ向けられたものではないことに。

その事実が胸に染みた。

狭い箱の中しか知らなかった自分は、長い間多くのものに気づかずにいたのかもしれない。
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