波紋の刻

□抗いの刃
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応戦に入ったがその時の現状を見て朔夜は目を疑った。そこには四肢が切断され建物の瓦礫の中に埋もれた禰豆子の姿があった。鬼とはいえ痛みを感じないわけではない。その苦痛がどれほどのものか朔夜には想像を絶した。禰豆子の事も気にかかったが今は立ち止まっている時間はない。何よりどんなに深い傷でも鬼同士の乱闘で負った傷は致命傷になることはないからだ。朔夜は建物の屋根の上から地上でその様子を見ていた堕姫に斬りかかった。

「来たな。さっきはよくも傷を付けてくれた。どう仕返しをしてやろうか?」

朔夜の刃を堕姫は帯で受けた。刀を交えて気がついた。決して浅く斬り込んだわけではないのだが先よりも断然に帯の強度が上がっている。朔夜は体勢を立て直すべく後ろへ飛んで一旦間合いを取った。

「ふん、全然大したことないじゃない。」

堕姫は不敵に口角を上げる。それを見て朔夜は薄らと笑みを浮かべた。

「こんな人間如きに斬られる鬼も鬼ね。貴女、本当に上弦の鬼?」

「はっ?!何言ってんの?!私は上弦の──……」

堕姫は言いかけたまま表情を固めた。すると堕姫の帯の一部がはらりと地面に落ちた。ゆっくりと舞い落ちる帯を見ながら、堕姫は目を真っ赤にして額に青筋を浮かばせていった。朔夜はヒュンと日輪刀で空を切った。朔夜は間合いを取る際にもう一撃加えていたのだ。こちらが冷静にさえなってみれば堕姫にはまだ隙がある。

「……アンタむかつくわね。決めた。死なない程度に四肢を捥いで生きたままじわじわ喰ってあげる。」

「私程度に斬られるようならば、柱はお前の相手なんかじゃない。」

「たかが帯に傷を入れた程度で調子に乗ってんじゃないわよッ!!」

堕姫の帯が何重にも重なり朔夜に伸びてくる。帯の数は数本。一本を相手にしてしまえば他の帯に背をとられ兼ねない。堕姫の動きは炭治郎との戦いで見た。動きを冷静に読めば戦う事ができる。朔夜は一瞬たりとも気を抜かず集中した。今鬼を倒す事ができるのは鬼である禰豆子でもなくこの日輪刀だけだ。朔夜は帯を受け流し一歩強く踏み込んで堕姫の懐に入った。堕姫と視線が交差する。朔夜はまず直ぐに再生させないよう帯の付け根に斬りこんだ。束となった帯は重く想像以上に硬い。

「……くッ……!」

「どう?アタシの帯は。」

「何言ってるの。炭治郎にも斬られていたじゃない。」

朔夜の煽りに堕姫の怒りが表情に現れた。どうもこの鬼は感情に左右されやすいらしい。それは堕姫の目を見ればわかる。ただ冷酷なだけの鬼よりもまだ朔夜には勝機が見えた。朔夜は隙を見て力を一点に集中させた。速さもそうであるが分散しがちな力を確実に刃先に伝えられるように、朔夜は立て直し二度刀を振り抜いた。この一瞬のうちで更に倍の力を与える事は他の誰に出来る芸当ではない。朔夜の渾身の一撃に堕姫の帯には亀裂が入り帯を完全に切断した。

──斬れた!

目の前に帯の切れ端が舞った。朔夜は間髪入れず更に内へと踏み込む。このまま頸を斬る。その思いが朔夜の気を走らせた。型を出そうとした瞬間堕姫が笑んだ。

頸を斬られるかもしれない時に笑っている……?

「馬鹿ね。誰が帯はそれだけって言った?さっきのブサイクのせいでアタシもちょっと頭を使ったの。」

ゾワッと背筋に寒気が走った。朔夜は咄嗟に自分の動きに静止をかけた。地面を擦りながらそれ以上飛び込む事を一旦辞める。同時に刀を持つ右腕、肩の部分に鋭い痛みが走った。朔夜は思い切り後方へ地面を蹴り反射で刀を振ると何かを斬った感触があった。宙で一転する間に確認できたのは、右肩の着物がザックリと破れ露になった肌に滲んだ血。今し方斬ったであろう堕姫の帯も視界隅に入った。

もう少し反応が遅ければ腕が切断されるところだった。さすがに生身の身体に鬼の攻撃を真面に受けると、呼吸で粗方の止血は出来たとしても受けた傷は相当なものになる。これで両肩に傷を負った。それも右肩の方は少々傷が深い。これは剣士として相当な痛手だ。

「人間は脆いな……直ぐに壊れる。でも鬼は何も失わない!!」

地面に着地すると同時に仕掛けられた堕姫の追撃を朔夜は刀で受けた。両肩の傷からブシュッと血が吹き出し朔夜は痛みに顔を歪ませた。出血と痛みのせいで上手く力が入らない。当然真っ当な力の押し合いだけでは鬼に負ける。

──まずい。

そう思ったのは、右肩の傷口が更に裂け開き刀を握る手に感覚が無くなったからだ。瞬間、朔夜は帯に弾き飛ばされ禰豆子とは対面の家屋に突っ込んだ。
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